透明金魚

集合団地のあちこちで
透明金魚が、ちりん、ちりん
かあてんレールの隅っこで
ちりん、ちりりん
からん、からん

玄関の向こうは元気がいい
今年もお暑うございますねえ
本当にお暑うございますねえ
あら、そう言えば西瓜を召し上がりません
あら、本当によろしいの、嬉しいわ

ちりん、ちりりん、からんからん
こんにちは、今年もお会いできましたね
ちりん、ちりりん
今年も良い風が吹くといいですね
からん、からん

二十年が経ち、ふた昔
三十年が経ち、みつ昔
顔の見えないご近所さん
もう階段にものぼらない
マスク姿のエレベーター
すれ違っても声もなし
小さな会釈で過ぎていく

ちりん、ちりりん、からららん
今年も溶けだした風のなか
透明金魚は泳ぎ出す
ちりん、ちりりん、からららん
こんにちは、今年もお会いできましたね。

投稿者

福岡県

コメント

  1. 人間関係の希釈はもう日本中どこでもおこっているようです。町中知り合いだったはずの田舎でも。
    ここのところのマスク必着では実際会釈されても、う、誰だったけなといやな汗をかく始末。しかも互いに近寄るなじゃ、隣人と言わずほんとに孤立化がすすみます。
    その中で風鈴の涼やかな高い響きだけが善き日の日本を思い出させます。ああスイカ、たべたいな。

  2. 隣の顔さえ見えず
    挨拶も会釈で
    わたしきれい?と聞く
    妖怪変化のが人間らしい
    きがします。

  3. すてきです。
    どんな言葉もこの詩の前ではくらむから、上手い感想が書けないです。

  4. 住人より
    からんと佇む透明金魚さんたちの雰囲気の方が
    より、ご近所さん

  5. ふるきよき夏と、令和の夏のコントラストから、考えさせられます。

  6. 集合団地の風鈴が一斉になると、どこか浮世離れして、違うどこかに連れ去られた気分になります。
    ありがとう。

  7. よくよく考えれば、むしむしとした暑さを避けるために音で涼む、っていう発想はすごく詩的な行為ですよね。人々は交わらないのに、団地の各部屋の軒先に同じ透明金魚の風鈴が並んでいて、それらが一斉に鳴る光景には、なにか平均化された一つの意志みたいなものを感じて、すごく皮肉的にも思えます。近頃では風鈴をぶら下げる家ってどのくらいあるんだろう。我が家では娘が幼稚園で作ってきた紙粘土製のパンダの風鈴が、何年も揺れています。

  8. ころんころんとなる風鈴は
    優しいあまさがありますよね。

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