054

054

いまだに風は
冬を吹聴していくが

すでに光は
春を祝福している

押し黙る蕾は
華やかな企みを内に秘め

気象予報士を惑わせながらも
季節は巡ろうとしている

代り映えのしない今日が
気づかぬうちに更新されていくというのに

わたしは猫の額のような庭に根を張ったまま
入院した猫のことを考えている

そうなんだ いつだって
こうやって わたしは置いていかれる

すべてのことに置いていかれる

歩かねば

ならない 追いつかねば

ならない

だいぶ和らいだ空をぼんやり眺めていたら
自転車のベルがチリリと鳴った

あなたが手を振っている

きまり悪そうに
わたしも手を振り返した

投稿者

東京都

コメント

  1. 全く非日常のことを謳っているのに、すごい身近にある日常を切り取ったかのような表現がすごいなと思いました。
    抽象的な表現なのに「わかる、そうなんだよなぁ」って固く押し黙るつぼみに共感したりして。詩にすると美しく切り取られて、密やかに切り離せたりしますね。

  2. @ザイチ さん
    >コメントありがとうございます
    もう少しストレートに書いても良かったのですが
    想いが強く出過ぎないようにシュガーコートしてしまいました(笑)
    丁寧に読み解いていただいて、ありがとうございます。
    写真は久しぶりに狙って撮ってみましたが、まだまだですね(汗;

コメントするためには、 ログイン してください。