髪ゴム
この扉開けたら
新宿だったらなとキミは呟いて
二時間三千円で買った ふたりの夢は
誰にも知られずに
なかったことにできる
自動ドアが白々しく開いた瞬間が終わり
眩しいや
出るとやはり私の地元だった
駅前に一軒しかないラブホテル
高校生の頃からみんなここでセックスした
斜め向こうは親友が働いてたソープランド
錆びついた スナックの看板
空き地
空きテナント
シャッターが降りた商店街
パチンコ屋
そこを流れる潮の匂い
一瞬で過ぎ去る夏も
豪雪の日も
待ってたんだけど
いつしか来なくなった
風の便りで結婚したと聞いた
後ろからしてる時
髪を束ねた髪ゴムを
彼はそっと外した
なにか所帯染みていて嫌だったのかもしれない
結婚相手はロングヘアだろうか?
後ろから
彼女の束ねた髪をほどくことが
あるだろうか
わたしのことを
ふと思い出すことが
駅までの道を歩いた
町の匂いを
思い出さなくていい
夢だったんだ
――詩集『花びらが舞う』(書肆ブン、2024年3月10日発行)所収
コメント
版元、書肆ブンから購入か、Amazonです。
花巻さん
すみません、日本WEB詩人会の投稿作品は基本初出のものでお願いしています
今回は良いので、今後、そのようにお願いします