定家葛

 カーテンの蔭から
 明けそめる六月の湖
 炎うつす水鏡で影絵になる街路樹
 夏を待つ短い ひと時
 心の中にも ふと真空の様な状態が訪れる

 北窓の空はいつも遠く 大きく私を愛し
 孤りいることが
 苦悩を高め
 やがてそれを浄化するのだと知った

 そんな休日の真昼間
 古民家の垣根の傍を通りすがり
 遠目に見えた霊柩車
 国道沿いのセレモニーホールから
 車道へ出ようとして
 車が途切れるのを待っている
 私の鼻腔には甘い芳香
 濃い緑の葉と白花が茎から付着根を生やして
 垣根へ這い上がるテイカカズラ

 薄雲の重なりはじめた真昼間
 ベランダに干してきたシーツと掛け布団カバーは
 夕刻までに乾くだろう
 
 夏を待つ短い ひと時
 六月の湖の
 ひそかな暁に
 貴女らしく生きていますか と、
 尋ねられて
 
 
 

投稿者

滋賀県

コメント

  1. 風景描写が相変わらず美しいですね。
    霊柩車と定家葛の香り。。。
    生と死を鮮明に意識させられました。
    いつも「私」として生きていたいものです。

  2. @nonya
       様へ

     いつも、どうもありがとうございます!(*^^*)
     ご感想のお言葉、とても嬉しいです。
     表現するというのは、不思議なものだなぁ…と近ごろ書いていて沸々と感じます。
     如何にして言葉にせずに、書かないで描くというか…。脱稿した時点で、作品は
     私へ他人顔をしています。
     お読みくださる方からの暖かいコメントをいただきながら、少しずつ進歩してきた
     様にも思います。 本当に感謝しています。m(_ _)m

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