葛とカナブン
福島さんの家から畑までの間に
毎年葛がびっしりと繁茂する
葛のせまりくる津波を
僕は金を貰って
土が見えるまで除草する
からまる髪をほどきもせず
むしりとり引きちぎる
知ってるかい
カナブンは
葛の元でないと生まれない
草の匂いが染み付いたシャツは
ぐっしょりと重く纏わりつく
裸にされた大地に
容赦なく太陽は照り付ける
白くうごめくものは
やがてこの地から姿を消すだろう
悠久なんて言葉は
嘘のように簡単に
人間は捨て去ることができるんだよ
貰った金で酒を飲みに行こう
明るいうちから飲むのに
なんの罪悪感も無くなった
ふと頭を下げると
降りていくこの靴の下に
動くものが目によぎる
1センチもみたないアリを
今176センチが踏み潰した
アスファルトに染みてく
アリの血と僕の汗
混ざりあう果てに真夏の夢
地球の全てを覆いつくす葛
聞こえることのない悲鳴
まだ苦味が口にあるので
足早に立ち飲み屋に向かう
犬を抱きながらたばこを吸う女と
すれ違ったが二秒で忘れる
苦味はさっさと洗い流すことさ
ビールを一杯貰うと
あとは焼酎
目を瞑ってカナブンの
金属質な飛翔を思い浮かべる
太陽とかぶって
まぶしくてしょうがない
目を突き抜け爆発する輝きの切っ先
知ってるかい
カナブンは
葛の元でないと生まれない
コメント
日常の中に詩情を感じることってオレにはできないので(良い意味でも悪い意味でも)、こういうのちょっと憧れる。なおかつ平凡じゃなくて、単調じゃなくて、しっかり個性も感じる。マイホームを建てる時、やっぱ土がないとダメでしょ!って、そこそこ大きめに庭を作ったもんだから、夏の草むしりが大変で大変で。今日本当にたまたまカナブンが庭にいて、この詩のカナブンが来たのかなと思った。
先日リゾートで優雅な休日を過ごした折に、部屋付きの豪華なプールサイドに、夜な夜な大量発生したカナブンがやって来たのでした。いや、カナブンじゃなくてコガネムシか? どっちだ? ということでその時調べてみたのですが、結果コガネムシでした。その時に知ったのですが、カナブンは土壌を改良する益虫で、コガネムシは葉を食い荒らす害虫だそうで。遠慮なく、備え付けのタモでもって駆除したわけですが。でも益虫、害虫って何だ? 結局人間にとって益か害かってことであって、虫そのものや地球にとってはどっちでもない。何だってそうですよね。私は「地球に優しく」という言葉が嫌いです。実に胡散臭い。「地球に優しく」という物事はすべて「人間に優しく」と言い変えるべきです。「愛は地球を救う」? 嘘言ってんじゃないよ。「愛は人間を救う」だろ。地球は何とも思っちゃいないんです人間のやることなんか。という、私の言わんとしていることと同じようなもやもやした感じをこの詩からも受けるのでした。
トノモトさん
日常はいつも頭の中の出来事で、僕には非日常も日常もミモフタモなく言えば頭の中のかげろう。
庭付き一戸建てかあ。BBQもいいね。草むしりしながら、雑草(たかぼさんじゃないけどこの呼び名もうさんくさい)の種類や名前のいわれを覚えると楽しいよー
たかぼさん
そう。コガネムシは害虫でハナムグリやカナブンは益虫。虫は虫でしかないのにね。
でもコガネムシに育ててる葉っぱをぼろぼろにされるとこの害虫!と思ってしまう。
カナブンは幼虫期までの適正環境が狭いので最近は他のに負けてどんどん数を減らしていると記事で読みました。こんなポピュラーな昆虫なのに最近幼虫が育つ場所がわかったそう。
たかぼさんの言う地球と人間の話はまさにそういつも心に淀むはなしです。
地球規模での害という冠を見れば、福島をあらためて思い浮かべなくともなんとなく誰もが苦いものを感じるのでしょうが、僕もまだ人間なのでビールで洗い流し感じなかったことにするんでしょう。
悪い癖で、葛をクズって解した方が良いのか?そのまま受け取った方が良いのか?画像検索したら、うっそうと生えた葛はやっかいそうだな、と思いました。カナブンの金属的な飛翔が、太陽とかぶるところは、エジプトのスカラベでした、だから太陽の神なのかとも思いました。(スカラベがカナブンとは違うとおもいますが、、)
timoleonさん
葛は葛餅をつくる葛粉をとったり漢方薬の葛根湯の材料だったり、つるの先っちょは天ぷらで食べられたり昔はいろいろ有用したようですけど、今は邪魔でしかないみたいですね。また葛が覆った斜面は土砂の崩壊を防ぐ効果があるようです。
アメリカでは日本由来の葛がものすごい勢いで繁茂し山を覆いつくすので、非常に厄介な外来生物となっているよです。
スカラベ、太陽神の使い。なお一層意味が深くなりそうです。ありがとうございました。
ふとジャーニーというバンドの「エスケイプ」というアルバムのジャケットが浮かびました。後付けですけど。