炎昼
おだやかだった海面に
大きなうねりをあげて
一頭の白鯨が、ゆっくり西へ
進みゆく
碧く流れる潮風
八月の炎昼
厭世的な時間を白く塗りつぶした遠景の
どこかで水没している懐中時計
沖に浮かぶ舟から
その秒針を耳にする
わたしにも還る岸壁は無いのだから
西へ 進み行こう
ひとりの私の
ひとつの生き様
雲よりも高い所に抱かれる虚ろな光の
欠けた兎影に目を凝らす
私の背後で
大型トラックのタイヤが、路面に擦れる走行音
製紙工場の正門を出て細い通りを国道へ向かう
緑色の金網が張られたフェンス越しにみる
母校のグラウンド
夏休み中で閉鎖されたままのプール
大きな体育館の銀色でまぶしすぎるアール屋根
壁には白いオープンフェイスに黒の文字盤の時計
熱砂の静寂がまた戻ってきて
名も無き大洋で鯨をながめる
八月の炎昼
只、いのちの休息を求めて
コメント
白鯨っていう小説がありましたよね? 私は未読なのですが(^_^;)
それはともかくとして、一連目で、なんというか
おだやかだった日常に大きなうねりを起こすような何かが起きたのかな、と
白鯨というのが意味しているのが何かまでは、ちょっと想像に及びませんでしたが
三連目で描かれているのが、この詩の主人公が日常いつも見ている
本当に何気なく、変わらずにずっとそこにある
ある意味とても退屈だけれど安心する風景で
でもきっと、どこかに失くしてしまった時間(記憶?)を
本当はずっと探し続けていたのじゃないか
白鯨が、そういった思いを思い起こさせてくれたのでは?
いのちの休息
本来の自分を取り戻したいということかな、と
またまた勝手な妄想が膨らんじゃいました(#^^#)
@雨音陽炎
様へ
お読みいただきましてコメントをくださり、とても嬉しいです!どうもありがとうございます。^^
この詩は私でも読み返す度、何とでも詠むことの出来る。だから人によって感じて貰える事もそれぞれ違ってくるのだろうと思うのです。
構成としては、ニ編の詩が一つになっていて。第三連はこれだけで一編にも成り得ます。ここをカッコで括るか、一コマ落とすか……考えたのですが。段を落とすと強調されてしまうし、カッコで括るには長いため、迷いました。
今までの作品とは、ちょっと異質な感じもあり。原稿を寝かせて、また改訂するかもしれません。例えば一枚の白いキャンパスがあったとしたら、そこに描かれてあるものを、あらわすといった感覚で。「書く」という意識とは少し違うのかも知れません。