宵明星

 巨大なクレーン
 うなるハンマー
 油の浮いた黒い潮 
 晴れた日には
 四国の連峰のみえる造船場

 岸壁で吹き飛ばされる
 二人の笑い
 風なんて
 昔々からアナタのことも私のことも
 皆知り尽くしているんだから

 恋が終わった幾日目か
 指を折ることに疲れて
 星のない夜は ほっと安慰し
 月のない空は 呼吸を復する

 ゆったりとアナタとワタシにからむ黄昏
 肩を抱きに来るアナタの横顔がみにくい
 小指にすきとおる血潮を愛しんだ
 かわいい女は何処へ行ったのか

 輝かしい真昼の陽のくるめきも
 もえ立っていた大気も
 背中に重たくしょって
 こんなに風が吹くのに
 空の私はあんなに大きく目を開いて
 まばたきもしていない

 いやにきれいな宵明星
 動きもしない 空の私
 私のドッペルゲンガー

投稿者

滋賀県

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。