博士の犬

博士の犬

このままでは犬は人間の言葉を理解する
警備室の〈オサム〉は心配である
犬たちの攻撃は執拗であり
彼の先輩もその歯に噛まれて入院している
この会社の犬たちがたいそう強そうに見えても
彼等には人間に噛みつく訓練はしていない
ところが盗賊たちの犬は
飛びついて喉を食い破ろうとする
犬たちは罪悪感を持たないのである
ただ群れの中で自分が一番役立つことを示そうとする
日が沈むと森の方から沈黙の恐怖が
空気にまじる死への恐れが
じわじわと鉄柵をこえて感じられるのである
俺はしだいに犬になる
あまりの恐怖に犬になる
そのうしろあしでくびすじのあたりをかく
たらしたながい舌からぼたぼたと
よだれがたれてとまらない
鉄柵の向こうにいるものは
ひたすらこちらをうかがっている
その視線を感じて
するどくほえるのだ
もう俺は
言葉でそれを伝えない
暗い鉄柵をよじのぼってくるあいつらに
俺はするどくほえるのである
地面にするどい爪を立てて。

投稿者

岡山県

コメント

  1. 「俺はしだいに犬になる」以降の畳み掛けるような表現が切迫感があってグッときます。みんながみんな犬なのかもしれぬ。

  2. 確かにスピード感があっていいですね。小説と違って説明しすぎないところが詩の良いところですね。

  3. この詩には人に読ませる気迫がありますね。鬼気迫る、というか。それにつられて坂本さんの世界にはまりこんでいく…

コメントするためには、 ログイン してください。