博士の犬
このままでは犬は人間の言葉を理解する
警備室の〈オサム〉は心配である
犬たちの攻撃は執拗であり
彼の先輩もその歯に噛まれて入院している
この会社の犬たちがたいそう強そうに見えても
彼等には人間に噛みつく訓練はしていない
ところが盗賊たちの犬は
飛びついて喉を食い破ろうとする
犬たちは罪悪感を持たないのである
ただ群れの中で自分が一番役立つことを示そうとする
日が沈むと森の方から沈黙の恐怖が
空気にまじる死への恐れが
じわじわと鉄柵をこえて感じられるのである
俺はしだいに犬になる
あまりの恐怖に犬になる
そのうしろあしでくびすじのあたりをかく
たらしたながい舌からぼたぼたと
よだれがたれてとまらない
鉄柵の向こうにいるものは
ひたすらこちらをうかがっている
その視線を感じて
するどくほえるのだ
もう俺は
言葉でそれを伝えない
暗い鉄柵をよじのぼってくるあいつらに
俺はするどくほえるのである
地面にするどい爪を立てて。
コメント
「俺はしだいに犬になる」以降の畳み掛けるような表現が切迫感があってグッときます。みんながみんな犬なのかもしれぬ。
確かにスピード感があっていいですね。小説と違って説明しすぎないところが詩の良いところですね。
この詩には人に読ませる気迫がありますね。鬼気迫る、というか。それにつられて坂本さんの世界にはまりこんでいく…