鹿

治らない傷に触れ、指先が爛れてしまった。何故触れたのか、わたしも分らない。
鼻を刺す匂いがするので、悲しさの泉で、指先が透明になるまで、傷口を洗った。

 ポテトチップスが一枚ある。友達が分けてくれた。このジャンクフード、炭水化
物を執拗に揚げた上に油でコーティングすることで体を壊すような栄養素を増して
いる。友達はおいしいと言って愛でくれている。いいえ食べませんと断るか、はい
いただきますと従うか、ただのポテトチップスだ、ただの。そして大体の私に起き

た人生の物事はこのおやつにたとえられる。わたしは自分の傷が治るかどうか、そ
れしか考えなかったからわたしに嫌われてしまった。世界の傷が癒えることだけを
考えるべきだった。何故世界が伝播する病に犯されているのか、ポテトチップスと
は何なのか。

また誰かが森に分け入り 悲しみの冷たい泉に集まる鹿のように 美しいといって
画家に描かれる その絵画を人はもてはやす 森の、鹿の、 痛みを知らず、 傷付
くことができないまま、 あれが自分の姿だと、夕陽の紅 悲しみの泉 鹿 触れ
ることで 爛れる傷 覚めないものを 眠りとは 呼べない 悪夢の様な おやつ

ポテトチップスは治らない、なぜならジャガイモのままでは人は食えないから、わ
たしはもうおやつをあなたに分けたりしないだろうしそれはそれで愛なのだと話す

美しい朝日だった 美しい闇夜だった わたしは気が付く 鍵の掛かった檻に
都合の良い名前で 展示された獣だと 皮肉も冗談も不要 全てが悪い夢だと
掛けられた呪いと 一人で生きていく 星にはならないと 立ち止まり 考え

投稿者

神奈川県

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