アダムとイヴ

私はアダムでありイヴであった
生まれたばかりの何も知らなかったときは

ただこの場所に自分と自分を取り巻く世界がある
その認識すら危ういほどに世界に溶けていた

煩悩といえる欲もなく欲するものは生きることだけ
苦楽も感情も言葉もなにも必要ではなかった
ただあるがままであった

時を経て私は追放されることになった
無知という素晴らしい世界にはもう戻れない
知恵の実を食べさせられたようだった

私は外界の物事を知ることになった
苦痛に快楽、男性と女性
働かなければならないこと
過ちを犯してはいけないこと
その他もろもろ私を取り巻く世界について

何も知らなければ何も感じなかった
そんなことに悩まされることも
それらに苦しめられることもなかった

食べてはいけないものを食べるようにそそのかした
いやいつの間にか食事に紛れ込ませたその蛇は

父であり母であり大人たちなのだ
私を生み私を教育していた
私にかかわる大人たちなのだ

いずれ私も知恵の実を食わせることになるのかもしれない
生命の実から生まれた子らに、私の知らないうちに

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コメント

  1. アダムとイブというタイトルから
    人間の愚かさとかそういったことが描かれていくのかなと
    読み進めていきました

    後半部分で、ハッとさせられました
    たしかに、私たち人間はなにもわからない
    まったく無垢な状態で産まれ堕ちて
    衣食住だけでなく、言葉とか振る舞いとか
    一番最初に教わるのは親ですものね

    知恵の実に喩えているのも、とてもわかりやすく
    なるほど、そういうことだったかと
    腹落ちすることができました

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