空襲

空襲

子供の頃
うちではまだ戦争が終わっていなくて
徴兵されるために
産まれたみたいだった

そもそも母親が
旗を振って我が子を(それも女を)
徴兵に出すために
育てるなんてことがまずメルヘンで

父親もそんな母親を見て
諸手を挙げて賛成していた
どれだけ狂った家庭だったか
想像に難くないだろう

かくして私ははだしのゲンを読みふける
鉛筆一本買いたいと言えない
全てが借金の上に成り立っている
貧しさを下回る地獄を見た

自分が不幸だと思わないことが
一番の不幸だった
天才の証は
誰よりも運が無いことだ

仕事と遊ぶことの区別が付かなかった
誰かの為に死ぬのが当たり前だった
自分の子供にこの苦痛を味あわせたくなくて
結婚に繋がる全ての道を閉ざした

分かってくれとは言えない
柿の種齧りながらワンカップ大関を飲んで
あなただって
焦土と化した故郷で過ごした子供時代を思い出している

戦争は終わった
この国は負けた
何故負けたのか
その理由も知らず

謝るということを知らない母親は
終戦を知らない
たまたま人を殺さなくて済んだ祖父は
悪というものが何か分からないまま死んだ

何故私が妖怪みたいに霞を食いながら
戦後の歴史を掘り返さなければならないのか
それは貧しいからである
富について考え直す必要に駆られたからである

ひとつ答えが出せそうな事もある
でもまた答えには出来ない
言葉にするにはエビデンスが無さ過ぎて
ただそうであるという感覚で話すにはナイーブだ

母親を隣りにして
せめてこの手で殺すことで
この家が間違っていたのだと認めたい
元総理を暗殺したというあの青年の事件を思い起こす

私は
ただ
生きていきたいと
思ったことさえなかった

私にいつか復讐されないと何故分かるんだ
何故私が何もかもを許すと確信しているんだ
その時が来たら思い出せばいい
何故自分が殺されなかったのか

くだらないからだよ
それだけだ
考えてることのすべてが
そもそも間違ってる

噛み合わない歯車だ
分かっていて仕事をする
そしてそこに人生は
全く関係しない

生きる為に金が要ることと
働くことの幸せは
今の所正しく機能している
ここは学校ではない

月の光に照らされながら
夜通し血の系譜を見ていた
自分がそうしたいと思ったから
何処から来て何処へ向かうのか

この国は負けたのだ
そして貧しさという言葉さえ似つかわしくないほど
飢餓に犯されている
声も高らかに狂っていく

時代は繰り返すのだろう
私はそれを見ていることしか出来ない
愛も恋も構わないよ
でも何処かでは

皆感付いているのだ
人として生きることの本当の意味
晴れ渡った日に、自分の心が悲しいと感じることを
なぜ諦められないのか

繰り返すべきじゃないからだ
私はこの家に産まれたことを後悔している
日本が間違ったことを
後世に至るまで認める時を待てない

なんだか壮大な話に聞こえるだろうが
皆がサンマを捕りすぎて
すっかり瘦せこけちゃったのをスーパーで見るだろ
したいのはそれぐらい単純な話だ

投稿者

神奈川県

コメント

  1. 家庭の中も、機能不全家族の場合はもはや戦争だと思います
    世界的な大戦も戦争ですが、家庭の中でもそれは確実に起きていることだと私も思います
    そして大抵犠牲になるのは、一番小さくて弱い子ども

    親たちは自分たちがしていることはごく当たり前と思っているところが
    厄介なところでね

    結婚とか諦めたって気持ち、すごいわかります
    子どもを持つことも、自分も同じことをしてしまいそうで

    ラストのサンマの話ではないけど
    この話は珍しいことでもなんでもなくて
    いまも、日常として起きていることなんです

    意味のある詩だと思いました
    心に刺さりました

    ありがとうございました

  2. @雨音陽炎

    自分が同じことをしている自覚のある人は
    決して親を責めようとしません
    むしろ彼らを正しいと胸を張りたがります
    自分も間違っていることを
    運命か正義か、恰好いいことだと思っているからです

    そういう所も戦争に似ていると思います
    永遠に理解し合えない気がするし
    する必要もありません

    行く所まで行っていただきましょう
    私達には関わりのない世界で

    私もたぶんとても世の中に疲れている一人なのです
    いつも読んでくださって、コメントを有難うございます

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