ピリオドを撃て
蛇口を捻ると白昼夢の煌めきがゆうらりゆうらり騒ぎ出す、重力から解放された場所で濁った液体は歪み、やがて複雑なフォルムで踊り始める、ある時はグロテスクな鰐の姿、ある時は一枚の絵画、そして母親の顔、毎晩必ず決まった時間に叫ぶように笑う母親の顔、喉の奥に笑うための精密な機械が埋め込まれていて舌先でスイッチを押す、あらゆるスイッチは映像を構築するだけなので、モノクロ都市の人々は曖昧な輪郭を愛するようになる、他者からの二次的な接触から生まれる変化を幾何学で表現すれば、■から▲が認識論における通説、▲から●あるいは★がその矛盾、半分は真実で半分は諧謔という定義が全ての事象を支えていて、線路に寝転がる少女のスカートや、指揮棒に纏わり付く蠅、戦場にオブジェとして放置された人間の足、整然と並ぶアパートの窓からやはり母親は気持ちの悪い音階で笑っている、ディズニーのキャラクターがプリントされたTシャツを着ている、右手に包丁を持って何か切れるものはないかとせわしく歩き回っている、染色体の少ない犬の耳を見つける、キリストの横顔に似ていると思う、裏切り者は誰だ、何処からか声が聞こえる、声というよりは喉の奥の機械から漏れるデジタル音のようだ、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、誰でもいいと思う、何でもいいと思う、僕は早くこの詩が終わってしまえばいいと思う、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、裏切り者は誰だ、…切り者は誰だ、裏切り…は誰だ、裏……者…誰…、…切……は……、…………………、
[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.035: Title by 若原光彦]
コメント
題名からトリュフォーのピアニストを撃てを連想してしまいました。
綿密に構築された詩
とても僕には書けません。
誰…だって
切…ってやる。
やっぱり母親なんだな、母親はドラえもんの静ちゃんのママのようじゃなきゃな、そしてやはりピリオドは撃たれないのであった、、、
言うまでもなくピリオドは打つものであって撃つものではないのです。ですからピリオドを撃つと、それはまるでマシンガンを撃っているかのような迫力を感じるのです。そういう題がまず秀逸ですね。そして詩もまさしくマシンガンをぶっ放しているかのように言葉の銃弾が炸裂しているのです。