生きたい

じがよめないってどういうことか分かるかい
人を信じたことがないってことだ

僕は
字が読めなくなった

治ると信じてくれた人のお陰で
少し読めるようになったけど

たぶんまた読めなくなる
涙で前が見えないみたいに

その人がいなくなったら
きっとまた

その時こそ僕は本当に死ぬだろうな
社会的に、なんかどうでもいい理由で

昨日の夜死に際の子猫のことを
また思い出した

僕を呼び止めてたから
連れて帰った

明らかに死にかけてたから
温かい敷物をしいた段ボール箱と

カリカリと水をあげた

たぶん、たぶんだけども
彼がしようとしたのも同じことで

その子は一晩
ご飯を食べてちゃんと出してから死んだ

冬の風の強い夜だった
植え込みに隠れて

僕を呼び止めたから
そういうのなんていうんだろう

一晩休ませてあげたかった
最期に見るものが幸せならいいなと思った

死ぬって分かってた

それが一晩か
一年か

十年か
二百年か

それは知らない
でも同じことをしたんだ

そう思いたい
信じたい

字が読めなくなるってどんな気持ちか
分かりもしないんだろう

君が言うのはうぜえとキモイと死ねだけだ
他に言葉なんて知らないんだろう

だから
別に本当のことなんてどうだっていいんだけど

冬の風の冷たい夜だった
その子は

僕を呼び止めて
生きたいと言った

投稿者

神奈川県

コメント

  1. 知らない世界で何か昇華作用でも起きていたのだろうか?
    相変わらずの暗さだけど昔に比べて、言葉との良い関係の
    距離感が出てきていて、ネットのなかの創作詩のゴールの
    1つを教えてくださった感じがする。ので、スルー出来ず
    コメントを置いておきます。ありがとうございます。感謝。

  2. @足立らどみ
    この死にかけた野良の子猫の声を、うるさいと怒鳴りつけることが出来る化け物に、
    名前をつけて退治するためなら、戦争が起きたっていいと思うのです。
    有難うございます。

コメントするためには、 ログイン してください。