好きな時間
不在
たけだたもつ
ある日、あなたの背中に
窓があるのを見つけた
開けてみると
普通に外の景色があった
眩しければ鳥になるといいよ
とあなたが言うので
わたしは鳥になって
空へと飛びたつしかなかった
空はあんなに青いのに
どこまで行っても
あの青に 包まれることはない
飛びたった窓が
開け放たれているのが見えて
あなたがもう
不在であると知った
たけだたもつさんの「不在」という、好きな詩です。
たった十五行の中に、知ること、生きることの切なさが詰まっていて、胸がぎゅっとします。
この詩には、「あなた」と「わたし」と、わたしと世界をつなぐ窓がでてきます。
たとえば「わたし」が子どもだとして。
子どもの世界は知ることの連続だと思います。目は世界に見開かれていて、見たいもの、見たくないもの、選ぶことはできません。耳を塞いでも音は侵入してきます。皮膚はわたしを守るために傷つきます。世界は身勝手に、はだかの子どもに働きかけます。だから、囲いがある。親という囲い、家という囲い、ルール、約束。
窓は、たった一枚で、わたしと世界の間に隔たりを作ってくれていた。あなたは、いつかわたしが気づく日がくるとわかっていた。前だとすぐに気づかれてしまうから、背中だった。気づかれてしまったら、「鳥になるといいよ」と言うしかない。そして、そう言われたら、飛び立つしかない。ふと、振り返ったのでしょう。普通なら、窓が閉まっているのが見えて、あなたは不在、となる。けれど、窓は開け放たれている。だから、あなたはそこにいて、戻れるはずなのに、不在、とある。なぜでしょうか?わたしは振り返り、開け放たれた窓の向こうに広がる青を見たのでしょう。それは、今、自分が見ている青だったから。ただの窓があるだけです。
あの青に包まれることは二度とないけれど、いつか、誰かをその青で包むことはできる。そしてまたいずれ…。
詩が好きでたまらないと思うのは、こんな時です。あれこれ想像して、なんでだろうって考えあぐねている時間。腑に落ちて、心がいっぱいになって、感情に浸っている時間。詩は、自分の好きに読んでいい。いろんな読み方ができて、面白くて、自由で、好きです。
春の吹き溜まり
かみる
2024年3月20日 春分の日
午後12時6分に
ちゃんと祈れば
何でも願いがかなうって言われ
俺はいろいろ考えた
金持ちになりてえとか
女にモテたいとか
真実を知りたいとか
神のご加護をとか
世界征服とか
自由になりたいとか
国家権力に絶対捕まらないとか
ドラゴンボール無しで
年に一回神龍よこして欲しいとか
いろんな浅ましい考えが巡り
女々しくなって
その時間がやって来て
俺は祈らなかった
ロックン・ロール
友達は健康でありますようにとか
ハッピーになる
マジックを使えます様にとか
祈ったらしいが
俺は
病院で健康検査を受けた事がない
血液検査もした事がない
警察で小便を
取られた事があったけどな
ファック・ザ・ポリス
そんな事思い出しながら
時間が過ぎた
さっきまで春分の日の太陽は
光輝いてたのに
人間の勝手な願いが
吹き溜まったんだろう
空は雨に濡れた
俺はモッズを聴いて
眠りについた
春の吹き溜まり
かみるさんの「春の吹き溜まり」という詩です。これは、オナニーして音楽を聴いて寝た詩だと思いました。春って、みんなセックスしているような気がします。ラブホテルも満室で、そわそわして、してないのは自分だけじゃないかと思ったりして。春の吹き溜まり、=精液だまり、を連想します。俺は部屋に一人、教示を受けて、なにか、大そうなことを願おうとしたのだけれど、あれこれ考えて、やめた。たぶん、煮詰まると男はオナニーするのだと思う。ロックンロール。ちんこを触りながら、俺は性病に罹ったことはない、尿道からでたのは精子と〇便だけだと若干誇らしい気持ち。寝っ転がって、窓の方に目をやると雨が降ってきたようだ。春の太陽を妄想で汚してしまったからだろうか。すまん。まあいい。寝よう。
あー、やっぱり、詩が大好きです。
読んでいる時も、書いている時も、自分の好きな世界、感情に浸っていられるから。その時間は、とても自由な気持ち。
花巻まりか プロフィール
最近は俳句を作っています。来年、草原詩社から句集出版予定。
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