凶悪
淡い浴衣に赤い口紅
小さな歩幅で薄闇をゆく
こほこほと微かに咳き込み
白いうなじがなお青白く
小道の角を曲がる時
静かにおりんが鳴る
幾重も呻き声響く建物
熱に浮かされ訪れる
喉は渇き指先は震え
階段に座り込んでしまう
しかし軍医どのは言う
病のやつなど家へ帰れ
太陽は昇るなり黄色く
影さえも蒸発させて
命の選別を続ける
足許ももはやおぼつかず
意識は遠ざかるばかり
ああ誰か俺を止めてくれ
背の丈ほどの反魂草
その陰で浴衣の袖を通し
小指で濡れた紅をさす
胸のなかからざらついた風
ゴホゴホと噎せ返り
顎髭と黄色い花が揺れる
コメント
最初、女性をイメージして読んでいたのです。でも、
ああ誰か俺を止めてくれ
の箇所で、え?っと思って…。
でも、読み通してみると、女性のイメージで。
読み方が間違っていたら、すみません。
でも、最終連に、顎髭ですし…。
長谷川さん
ありがとう。
最近みた凶悪な話をイメージして、あまり猟奇風や凶悪にならないように(好きではないので)書きました。
暴行やジェンダー差別、むやみに掲げる日本らしさ、それと偉い方が言った「中等症は病院にくるな」
昔読んだ何かの小説で、野戦病院に来た結核かなにかの患者に軍医どのがここは戦闘で腕などを失うなどのケガを見るのだ、病人は帰れと言ってたのを思い出して。
もちろん顎髭は僕のこの顎髭。
酷暑の中、病を引きずり
軍医を訪ねる
独特の世界観のある、当時の映画を見ているようでいて、苦しい
とてもかっこいい
情景描写が情緒的だと思います。こういう情緒的な詩好きです。
不合理のなかで、胸のなかからざらついた風 ゴホゴホと噎せ返り、というところなどに、淡い浴衣に赤い口紅 小指で濡れた紅をさす、というところの紅が際立ちかえって生命力を感じます。