あのちゃん
あのね、わたしは全世界をつぶらなひとみにしたいの
とあのちゃんは言う
ヘビーな話ではなくてね、ビッグなはなしなのよ
すこし乾いた秋の空気があのちゃんの手足にさわやかで
ディズニーのキャラクターたちが空を飛んでいく
さまざまな愛すべき彼等の心の中には
あのちゃんのための席があるのです
それからひとつ確認させてください
あのちゃんは本当は誰なのですか
その真実の姿がわたしは見たいのです
〈あのねわたしは全世界を戦争だらけにしたいの〉
ピンクの花をたばねて、あのちゃんは笑いながら
そうしてミサイルのボタンを押すと言う
飛び出すミサイル、飛び出せミサイル、どんどん飛んでけ
あのちゃんの笑顔が描かれたそのミサイルの姿は
どこの国の空にも美しく映えるのです
その炎の噴出する勢いは、あくまで美しいのです
〈あのねわたしは燃える町が見たいの〉
飛び散るビルの壁、燃え盛る町、逃げ惑う人々
煙が町の空をおおう、ただ恐怖が町をおおう
そうした恐ろしい光景がつぎつぎと生み出されていく
それはあのちゃんの希望した未来なのですか
だって誰もそれをとめようとしないんだもの
そんなことをしようとするおとなたちがいないんだもの
〈あのちゃんはにこやかに笑う〉
だって戦争でお金持ちになる人がいるのだから
わたしはそんな人に笑顔を与えるのよ
そして美しいドレスで映画の主人公になりたいの
〈あのちゃんはそのかわゆらしい声で歌う〉
ある晴れた日にわたしの人形は燃える町をゆく
燃える人を見てごらん
それは魂のかけらをささげているのよ
どこへいくというのかしら
あのちゃんにはわからないの
ただ町も人も燃えているの。
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