切通しの道 (⑥)
喪失が追いかけて来る
〈忘れものだよ〉
と、喪失の右の手がわたしの肩をつかむ
君はそのような忘れ物に対して冷たいのではないのか
と、忘却が唇をよせてくる
しかしそのまえに、倦怠が後ろ手に縛られている
君自身は怠惰との結婚生活をつづけると言う
〈朝の太陽のから揚げだよ〉
と、妻はしぶとい感情の糸を吐きながら繭になる
トマトを煮詰めて、内部通報者とする
パンにぬる、ぬるぬるとぬる
このコウジロシダの裏側には、まきちらされる胞子がびっしりと
まるで、まるで、わたしはあなたに染まる
したじきになっている、この一枚の真実が薫くんです
このコーヒー農園の黒人たちが語ろうとする
英雄伝説のその中では、ひとりの女が死ぬのです
そして馬鹿でかい〈いちもつ〉をぶらさげて
密林の中に逃亡し、その果てにこの沼に沈み
ヒルが襲い掛かり、全身がヒルにおおわれて
美しい夕陽とともに、英雄の死です
観覧車がまわる、あの夕陽とまわる
その思い出とキンの鎖で、あなたの首にハマユウが咲く
ただし、これらの幸福とエニシダとパリ祭は
少女たちの歌でシニカルにシカンされ
轟きわたる新鮮なニガウリの花粉の肉親の骨董品のおくれげの
そのままにして、僕たちは日向灘へと出立する
金輪際の、ビワフラの、コジロウ鷹の餅蠟の
すみわたる観覧車にはふたりの下着姿の
蜂蜜の断崖の早くも蠱惑する親密である
ややもすれば、このもやいする、ひとつがいの、男と女は
縛られた手と手をきつく
挨拶する者とてなきままに
はや、日輪に処刑される
そのガンジスの一本の煙草。
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