拝啓、中島みゆき様 vol.2生きていてもいいですか
中島みゆき7枚目のアルバム、生きていてもいいですか
これ、CDを手にとった瞬間、ジャケットのインパクトにノックアウトされます。
まず、全面真っ黒。
その真っ黒の真ん中に白く、うっすらと消え入るように浮かぶアルバム名の文字。
怖い。はっきり云って怖い。迂闊に手を出してよさそうな代物じゃない。
CDショップなら、レジに持っていくかどうか怯んでしまいます。
それくらいに、ジャケットだけですでにかなりインパクト大なアルバムです。
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1曲目、うらみ、ます。
よくも悪くも、中島みゆきという歌い手のイメージを決定づけてしまった、
好いた男に弄ばれ、ひどいフラれ方をした女がその男を死ぬまで恨み続けるという、
云ってみればつまり、暗くて陰湿で怖い女、というイメージを、
世の特に男性たちに強烈に植え付けてしまった曲でもあります。
わたしの知り合いにも、わたしがみゆきのファンだと知るや、
やたらと怖い怖い、恨まれそう、と云っていた人がいました、余談ですが(苦笑)。
ある雑誌の記事にこの曲について言及したものがあり、その中でみゆきは、
「死ぬまで」っていうところが、そこまで恨み辛みの根っこが深いんだと
聴く側が受け取ってしまったことに対して、本当はそうじゃないんだと。
恨み辛みも所詮は「死ぬまで」のことで、墓場に入ってまでも恨み続けるわけじゃない。
所詮はその程度のことなのよって。
ジメジメとした暗い歌と思われがちだけど、本当はそういう歌じゃないんだと。
そんなようなことを仰っておられました。
そういう風に思いながら聴いてみると、また違った味わいができるような気がします。
みゆきはたしかに怖い人です。
ですがそれは、人間の根源的で根本的な本質を見抜く鋭い感性を持っているからで、
決して真夜中の暗い部屋の中、別れた男の寝床にぬっと立っているような、
そういった怖さではないのです。
まあ、わたしが云うまでのことでもないんですけど(^_^;)
2曲目、泣きたい夜に
♪一人で泣くとなんだか自分だけいけなく見えすぎる
冗談じゃないわ 世の中の誰も皆同じくらい悪い
自分ばっかり悪いような気がしてしまって、味方なんか一人もいない気がするとき
この歌詞に何度も何度も何度も救われてます。
みゆきの曲は、大勢でわいわい聴く曲じゃないですよね。
ひとりでしみじみと聴く、というより誰にも云えない自分の気持ちを
そっと聞いてもらうような気持ちで聴くものだと思います。
3曲目、キツネ狩りの歌
可愛らしい曲調と歌詞なのだけど、内容はかなり辛辣。
仲間とともにキツネ狩りに行ったつもりが
実はその仲間がキツネだった
キツネを仕留めるために放つ弓
放つ言葉、という意味なのかも
放った言葉の弓が、誰かを殺すこともありえる、という。
4曲目、蕎麦屋
この曲はたしか、ラジオで所ジョージさんと何かの賭けをして、
負けたら「蕎麦屋」というタイトルの曲を作ることになって、
で、負けてしまったのでこの曲ができた、と思います。
世界じゅうのすべての人が皆偉いような気がして
自分なんかいらないんじゃないかって、そんな風に思ってるところに
突然おまえから蕎麦食べに行こうと電話が来るんです
おまえはこっちの事情なんてまるでお構いなしに他愛ない話でケラケラ笑って
ラジオからはさっきからずっと大相撲中継が流れてて
あのね、わかんない奴もいるさって
突然云うんですね。
こんなこと突然云われたら、そりゃあ泣きますよ。泣いちゃう。
多分おまえは、世の中のほとんどがわかんなくっても、否定しても、
ひとりくらいはわかってる人間いるから。
そのひとりが俺だから、ってことを伝えたかったんでしょうね。
虫の知らせじゃないけど、おまえには何か感じるものがあったんでしょう。
私も誰かにとっての、この曲の「おまえ」のような存在になれたらなあ、
なんて思いつつ。
5曲目、船を出すのなら九月
狂騒のような夏が少しずつ帰り支度を始める九月
あなたという愛を失っても
愛はそこら中に転がっている
愛なんて別に大したものじゃない
どうせいつか冷めてしまうもの
だから捨てるには九月がちょうどいい
みんなが冬を見ている九月が
6曲目、インストゥルメンタル
7曲目、エレーン
中島みゆき全曲の中で、おそらく1・2位を争うほどの暗く重たい曲。
誰もが口ぐちに、とんでもない女だった、質の悪い女だった、死んでいってよかったと
噂され続け、たったひとり淋しくゴミ捨て場で死んでいた孤独な外国人娼婦・エレーン。
言葉の上手く通じない彼女はほとんど人と話すこともなく、
所持品も安い生地のドレスと、
タンスの引き出しの奥に仕舞っていた生まれた国の金に換えたわずかなあぶく銭。
国に残してきた小さな子どものための。
この曲は実話を元にしているらしく、
みゆきと仲のよかった外国人娼婦が、
ある日ゴミ捨て場で死体となって発見されたことが、
この曲を作るきっかけだったらしい。
アルバムタイトルでもある、生きていてもいいですか
誰もがそれを問いたい、けれど答えは解っているから誰も問うことができない
死んでしまった外国人娼婦だって、あんな死に方するために生きていたんじゃないはず。
日本に来れば、お金も稼げるし、子どもにも美味しいもの食べさせてあげられる、
もうちょっといい家にも住めるかもしれないし、いい暮らしもさせてあげられる。
この曲は、みゆきのエレーンに対するとてつもなく優しいまなざしと、
生きるということの、どうしようもない無常観、虚無感、貧困、格差、外国人、職業差別、女性蔑視
といったものをこれでもかというほどに突き付けてきます。
スゴイ曲です。
8曲目、異国
みゆきは度々、故郷はあるのに、帰りたくても帰ることができない
そんな人たちの心情をテーマに曲を作っていますが、
この曲はその最たるものではないかと、個人的にはそう思っています。
とめられながらも去る町
悪口ひとつも自慢のようにあたたかい
忘れたふりを装いながらも靴を脱ぐ場所があけてある
だけども、帰れないものにとっての故郷は
去り際に二度と帰ってくるなとツバを吐かれ
お前ここで生きていたっけ? 覚えもないね
故郷の話の輪の中に入れてももらえず
しがみつくにも足さえみせず
うらみつくにも袖さえみせず
泣かれる筋合いもない
それはもう自分にとっては、血のつながった他人のような
「異国」そのもの。
100億粒の灰になっても、帰り支度をしている、というのがなんとも云えないです。
誰も待ってなんかいやしないのに、
それでも待っていてくれる誰かがいるのではないかと願わずにはいられない。
どこに帰りたいと思っているのかも、
なぜに帰り支度をし続けているのかもわからないまま。
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うらみ、ますの「死ぬまで」から、異国の「100億粒の灰になっても」
そしてアルバムタイトル・生きていてもいいですか
とても深く重く、そして鋭く心の芯の芯の部分を突き刺してくる
そんなアルバムなのではないかと、わたしは思っています。
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最後までお読みいただき、ありがとうございます
今回は中島みゆき全アルバムの中でも特に重いテーマを扱っている
「生きていてもいいですか」について描きました
コメント
初めまして。
私も中島みゆきは大好きです。
特に「蕎麦屋」は昔から聞いてて
なんだかほっとしておりました。
失礼致します。
えっと…
ちょっとことば足らずだったように思えたので追加します。
その頃、私は、私だけ宇宙人の言葉を喋っているように感じてました。
通じないのも仕方ないなって思ってました。
「蕎麦屋」を聴く度、慰められて、うんうん。と頷いておりました。
おそらく地球上のどこかには、
雨音陽炎さまにとっての「おまえ」も必ずいる。
そんなことを感じた次第です。
失礼致しました。
拝啓、中島みゆき様 vol.2生きていてもいいですかというように、中島みゆきさんの アルバム 生きていてもいいですか への ひいては みゆきさんへの とても愛のある散文詩を今回も楽しく拝読しました。
読んでいて、へえ~ そうなんだあ、というレアで深いお話を拝見できました。この雨音さんの作品は、(私は、オールナイトニッポンと数十曲のみゆきさんの歌しか知らないけど)中島みゆきファンにとっては 貴重です。
ちなみに、アルバム 生きていてもいいですか は、ダビングしたテープで持っていて、数年前に新調したCDラジカセで、USBに起こして持っています。どれもみんなそれぞれに味わい深くて好きな曲ですが、泣きたい夜に が、特に好きです。
雨音さん、とてもすてきな みゆきさんへの詩作品を書いてくれて、ありがとうさま♪☆
^^
@山崎 響
さんへ
はじめまして
コメント、ありがとうございます
返信が遅くなってしまい、申し訳ありません
「蕎麦屋」いいですよね(^^)
そのお蕎麦屋さんの雰囲気とか、ラジオから流れてくる大相撲中継とか
情景が目に浮かぶようだし
そしてなんといってもあのフレーズ
>その頃、私は、私だけ宇宙人の言葉を喋っているように感じてました。
通じないのも仕方ないなって思ってました。
ちょっと解る気がします
私もいつも周囲と馴染めず、他者との間に
決して越えることの出来ない透明で頑丈な壁を感じてましたから
>おそらく地球上のどこかには、
雨音陽炎さまにとっての「おまえ」も必ずいる。
そんなそんなことを感じた次第です。
そうであったらとても嬉しいですし
私自身もまた、誰かにとっての「おまえ」に
なりたいものです
ありがとうございました
@こしごえ
さんへ
コメント、ありがとうございます
返信が遅くなってしまい、申し訳ありません
楽しく読んでいただけたのでしたらよかったです(#^.^#)
「泣きたい夜に」いいですよね
私にとっての大きなタオルでもあったりします(^^)
みゆきのアルバムって、1曲1曲単体としても聴けるし
繋がりが感じられるというか
全曲通して聴いたときに、アルバムタイトルの意味が解るような構図になっているのも
興味深いなあ、って思うんですよね
好きが高じすぎて、今回もついつい熱く語ってしまいましたが
すてきと思っていただけて、とても嬉しいです
ありがとうございました
☆★**追伸**★☆
こしごえさんの作品、コメントこそ残してませんが
いつも興味深く拝見させていただいてます