彼女の大事な飾り物

君 の
記憶
これまで生きてきた記憶
その中にある忘れられない出来事 の
数々は
捨てたいのに捨てられない 出来事 ばかりなの?
だから足首に鎖で繋いでいるように引きずって
歩く のかい?

足首に絡まる鎖は、
苦しみや悲しみ、憎しみや恨み、で、できている。 
鎖の先にあるのは棺桶で
棺桶の中にあるものは
死んでいった出来事 たち。
坂をのぼる時には、おもすぎる死人たち。

君は 薄闇の中を歩く。
宙を見つめながら。
身体の周りに、鬼火のような蝶と小鳥が虜になって彷徨って。
記憶
と君、は
薄闇の中を歩く。
ふわふわと
頼りない足どりで。
危ない、危ないと、
僕は大袈裟に、
大袈裟に、つまずきそうになる白い腕を背後から鷲づかむ。
その時君は「あ、忘れ物」
夏の忘れ物が 「蛍」だと呟いた。

棺桶には
世にも珍しい飾りがついているんだ
大切にしているの?
ついているのは飾りのようなもの?
冷たい?
音のない?
宝石?かなにかかな?
それとも澱んだ水が入った水晶玉?
日向の中で透かして見れば
墨色のすすけた、ビー玉
にでも変化する?
いつか鼻先につきだしてやるよ!
けれどきっと笑って言うだろう。
「綺麗なビー玉ね!」

君のなせる技、とくい技。
まるで空中遊泳する道化師さ。
そんな真似、誰にもできやしない!
景色
まわりの
白い広告看板 通り過ぎる人たちは、みな同じ顔と同じ向きさ。
並んで同じ方向に歩いている。
泳いでる魚たち
蒼 紫 深紅色 黄色 金色 銀色 橙 
真っ黒な目玉たち 真っ白な目玉たち
深海魚のように、ぎょろぎょろゆらゆらゆら深い海の底を泳いでいるよ。
ビルの谷間を浮くように。
で君だったらさ、やっぱりこれだよね!
「綺麗な水槽!」
拍手!
僕は君に拍手をおくる!
──さあ!よってらっしゃいみてらっしゃい珍しい出し物だ!
目隠しの道化師が、ビルとビルの間に細い紐をわたして、その上を歩く。
下にいる人たちは、珍しい出し物を見物する。
僕は、とりあえずトランポリンをして、遊んでみる。
誰かがアコーディオンを弾いていた。
息を吹き込ませるために、やってきたのか(あの道化師に!)
どうやら町は騒然と立ち向かうことにしたらしい。
車は止まり、灰色の建物からは次々と働いている人たちが
飛び出して拡声器とマイクをつかみ、道化師をむやみに応援する。
僕は、トランポリンにもう夢中!
横断歩道の真ん中で喜劇のひとり芝居。
猿による猿まわし。
ちょんまげ頭の歌舞伎役者が座ってお手玉をして遊ぶ!
混じり合い、楽しそうに、はやし立てる!祭り囃子!祭り囃子!

ああ
彼女の大事な棺桶の飾りもの
冷たい静かな音のない宝石かなにかかな?
それとも澱んだ水が入った水晶玉?
日向に透かしてみれば
墨色、のビー玉
にでも変化する?
いつか僕が鼻先につきだしてやる!
けれど彼女は笑って言うだろう。
「綺麗なビー玉ね!」

投稿者

栃木県

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