戀・めゝざこ・亡靈

私は戀一途に生きてきた譯でもなく
だが戀つて大事なものなのだなあ
と云ふ
實感だけは捨てられない

だつてさうでせう
戀なくば 闇
ですよ
『閑吟集』にも
橋の下のめゝざこだにも
我を忘れて戀をする、と
確かあつた筈

私の手元には

その本はないが
古本屋をしてゐた頃
賣つてしまつた

戀してる?
そんな中年の合言葉に
苦蟲を嚙み潰したやうな
顔を見せてゐた
私は
若かつたのだ

今、ひとりの中年男性として

樂しんで
悩んで
をります

〈愛したい愛されたいと亡靈がし殘した事蒸し返す夜 平手みき〉

投稿者

埼玉県

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