凝固、あるいは閉塞

感情が凝固点に達すると
涙は流れなくなる
すると行き場のない悲しみは
堆積し続けることになる

血と、石と、骨の記憶
まばらなようでいて妙に整然と
この胸の奥で靴音をたてている 
ときどき雑る金属質のきらめき
細ながく続く痛み

土に還る
海に還る
あるいは空に?
行き先が決まらないのはきっと
まだ留まれということなんだろう

息を潜めて
声を殺して
隠し通せない嘘を隠し通そうとする徒労
いつまで続くんだろう
いくつもの楔は
いつ抜かれるだろう

死んでゆく星系からかすかな信号がくる
母音だけの
祈りをやめた祈り手の声が聞こえるうちは
生きていようとおもう
涙の還るそのときまで

投稿者

東京都

コメント

  1. 血と、石と、骨の記憶
    まばらなようでいて妙に整然と
    この胸の奥で靴音をたてている

    ここ なんというか かっこいいです。

    そして、最終連に 希望を感じます。^^

  2. 感情を凝固してしまわなければならないほど
    深い傷を負ったひとがいます

    悲しいもツライも淋しいも
    痛いも苦しいも怒りも憎しみも
    愛も優しさもなにもかも
    鈍らせないと生きていけないひとがいます

    3連目が特に印象的です
    涙を還す場所がないからまだここに留まっていろ、という意味

    そして最終連の、生きていようとおもう
    ここに、かすかな希望と
    凝固してしまった感情がいつか解きほぐされ
    涙の放流となって還るべき場所に還れますようにという
    切実な祈りのように感じました

    あまねさんの詩は、とても痛々しいけれど
    そこにいつも光を充てがっているように思え
    ステキだと思います

  3. 一連目がとても印象的でした。書き残しておきたい名言です。

  4. 辛い。歳をとってこの詩に描かれているような行き詰まりが理解出来てしまうようになった気がする。
    深さというのをどこまで評価すべきか。私は浅い方がいいと思っていたことがある。しかし詩人はここまでいかなければいけないものなのかも知れない。深い。

  5. タイトルも一連目ものっけからキラーフレーズの宝庫のような詩ですね。
    でもフレーズというと技術っぽく聞こえるかも知れないけれど、悲しみを凝固するほど煮詰めて煮凝りみたいになるのを観察していく姿勢がないとこんな詩は絶対に生まれないんだろうと思います。蓋をして自分でも触れなくなってしまったような感情にこういう詩を通じて出会っていくことは、何か人生にとって大切な道程であるような気がします。

  6. @こしごえ
    さん
    かっこいいですか。照れ。ありがとうございます。
    靴音は軍靴のイメージで書きました。行進している感じ。

  7. @雨音陽炎
    さん
    ありがとうございます。
    もうメンヘラになってから四半世紀近く経つので、自分の中で
    少しずつ痛みがこなれてきているのかな、と感じる時もありますが、
    やっぱり痛いのは痛いですね。

  8. @たかぼ
    さん
    名言認定ありがとうございます。嬉しいです!
    制作秘話、というほどのものではないのですが、この詩は
    スマホに眠っていたメモに大幅加筆したものなんです。
    で、一連目だけは書き下ろし。へへ。

  9. @荒川濁流
    さん
    ぼくも時々は明るくて呑気な詩を書きたいなーと思ったりするのですが
    それだとリアリティが足りなくなってしまう気がしてます。
    今は落ち着いてますけど、昔はけっこう生き地獄を見たりもしたので(笑)
    まあネタの宝庫といえば宝庫なので、詩人的にはおいしい経験なのかなあ、とも。
    深いと言っていただけて恐縮です。照れ。

  10. @あぶくも
    さん
    丁寧に読んでくださってありがとうございます。
    そうですね、痛みに向き合ったからこそ詩が生まれるのかもですね。
    痛い辛い苦しいって書くのはいつでもできるけどそれだけだと詩になりませんから。
    沢山の錠剤と妻子の助けがあってここまでこれたんだなーと感謝の日々です。
    もうすぐメンヘラ25周年なので盛大にお祝い…はしなくていいか(笑)

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