拝啓、中島みゆき様 vol.6 夜会Vol.6シャングリラ
この作品は、母娘の愛憎の物語なのだけど
貧民街に生まれた実母とその親友
ともにどちらが先にいい人を見つけられるか
しあわせを夢見て日々、貧しいながらも仲良く暮らしていた
そんな暮らしの中、ある日実母は父親の知れぬ子どもを産む
親友は赤ん坊の誕生を心から祝福してくれ
小美(シャン・メイ)と名付けられたその子を
一緒に大事に大切に子育てしてくれる
だが、貧しさゆえに食うや食わずの生活で
次第にやせ細っていく実母は
子に飲ませる乳さえ出なくなってしまう
十分な栄養を与えられない小美にはもはや
泣く力すら残っていない
そんな中、親友が見初められ結婚するという一報が
相手は丘の上のシャングリラにすむ大富豪
しあわせを掴んだ親友に実母は心から喜ぶも
ある噂を耳にしてしまう
親友を見初めた大富豪には本国に本妻がおり
つまり親友は単なる妾にすぎないのだということ
親友にしあわせになってもらいたい実母は
すぐにその事実を伝えに行こうとするが
そのとき、ずっと泣かなかった小美が
かすかに泣き声をあげた
実母は親友に眠り薬を飲ませ
親友に成り代わって大富豪のもとへ嫁いでいく
小美に飲ませる乳を、栄養のあるものを送るため
親友に少しでもいい暮らしをと
宝物を送るため
しかし、騙されたと思った親友は
その宝物を受け取ることを拒み
貧しい暮らしの中で残された小美を育ててゆく
働き詰めでやがて疲れ果て 亡くなってしまう
成長した小美は、母(親友)を殺した女(実母)に復讐すべく
丘の上のシャングリラへメイドとして入り込む
この作品は冒頭にも言った通り、母娘の愛憎の物語なのだけど
ただの愛憎劇だけでは終わらせない、何かがある気がする
まず、貧民街に暮らすふたりの女性は
おそらく年端もいかない少女だったのではないかということ
次に、誰の子だかわからない、ということだが
これはもしかすると、人身売買とか少女売春とか
そういうのが関係しているんじゃないかということ
貧しい少女たちはお金のために体を売るしかなかったのではないか
舞台になった国がどこなのか、明示されてはいないが
たしかマニラとか東南アジアのどこかの国が舞台だったはず
時代背景もいつごろのことなのかわからないけど
日本が東南アジアに進出して、様々な企業がその国々で成功していった
その頃のことなのではないかと
いまではあるのかどうかわからないけど
当時の日本の男性は、現地で女を買ってたという話もよく聞いていたし
だとすると、大富豪は日本人で、本国に本妻がいる、というのも頷けるし
現地の女を、金の力で囲っていたとしても不思議ではない
しかも、自分の欲望を満たすためだけに甘い言葉で少女をたぶらかし
妊娠までさせておきながら、お金にさえ不自由させなければそれで責任取った気でいて
しかも相手の顔すらちゃんと覚えてもいないという
そして、だだっ広い屋敷にひとり置き去りにして、省みることすらしない
わが子を守りたいために親友にクスリを飲ませてまで自ら不幸を選んだ実母の悲しみ
親友だと思っていた実母に裏切られ、自分が掴むはずだったしあわせを
根こそぎ奪われてしまった、女の友情なんて所詮はそんなものと
それでも小美だけはこの手で、誰の助けも借りず育ててきた親友の悲しみ
母(親友)のしあわせを奪って、今ごろは丘の上の豪邸でのうのうと暮らしている女(実母)にいつか復讐してやる、
という思いだけでどうにか自分を保つことしかできなかった小美の悲しみ
その根源は、女を単なるおもちゃ、快楽を満たすための性の捌け口としか考えていない
ろくでもない男たちによって引き起こされた悲しみでもあるのだ
作中、大富豪の存在は、路地裏の噂程度しか出てこない
奥様となった実母は、病気で臥せったまま
何も知らずメイドとして入り込んだ小美は
なんとかして母(親友)を裏切った揚げ句、追い詰めて死なせたことを
あれやこれやと含みのある言い方をしては思い出させようと躍起
もしかしたら、もっと具合が悪くなるように少量ずつ毒を盛っていた可能性も
(そういったシーンはないので、あくまで推察)
お屋敷の豪華な食器や雑貨なども、貧民街で暮らしていた頃を思い出させるような
ものたちにあからさまに換えちゃったり
このお屋敷の一室には、鍵が掛ったまま開けることの出来ないチェストがあり
物語クライマックスでどうにかしてそのチェストをこじ開けることに成功
その中に入っていたもの
赤ん坊だった小美を抱いた奥様(実母)の一枚の古びた写真と
ガラガラなどの粗末なベビー用品
小美が復讐しようとしていたのは、実の母親だったと知ったその頃
実母は静かにその命の幕を閉じるのだった
この物語には描かれていない部分にいろんなことが詰め込まれていそうで
観れば観るほどに、3人の女性たちのそれぞれの想い
愛とか友情とか云ったものはとても脆くて、崩れやすくて
たった一度の裏切りが、まるでオセロの白が黒にひっくり返るみたいに
激しい憎悪に変わってしまったり
いいお屋敷に住んでいい服着て美味しいものが食べられたからって、
必ずしもしあわせに、心が満たされるというわけでもない
女の友情は脆い、と云われるけれども
友情があったからこそ、親友は許せなかったんだろうし
しあわせを奪われたって思いが、憎しみを増幅させていたと思うし
実母は実母で、親友には申し訳ないと思いながらも
小美を守りたい、生かしてやりたい、という願いからの行動だったんだろう
事実、まったくもってしあわせそうには見えないし
もともとそんなに丈夫そうでないところに
一番の理解者であったはずの親友を裏切ってしまったことへの罪悪感や
結婚しても、妾の身分であるがゆえに、旦那は年に一度くらいしか屋敷に来ず
話をする相手すらいない、孤独で淋しい生活
残していってしまったわが子、小美のことが気がかり
忘れたわけじゃない、忘れたわけじゃ
けれどもそんなことは何も知らない小美にまでも
辛い罪を背負わせてしまうハメになってしまって
復讐のためだけに生きてきた小美が真実を知ったそのあと、彼女はどうなるのかな
本当のことを受け入れて、実母のことを許すことが出来るんだろうか
それでもなお、育ててくれた母(親友)を思いやって、許したりしないんだろうか
自分のためだったとはいえ、置いていってしまったことに変わりはないわけで
血が繋がっているからこそ、相容れないものはいくらだってあるものね
どっちにしても小美には、復讐という枷から解き放たれ
自分の好きなこと、したいこと、楽しいこと、しあわせ、とか
そういうの、たっくさん沢山見つけて生きていってくれたらいいな
それにしても、メイド服やチャイナ服姿のみゆきがめっちゃかわいくってキレイ!
こんな姿を見られるのなんて、おそらく夜会くらいだろう(#^.^#)
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最後までお読みいただき、ありがとうございます
今回は夜会vol.6シャングリラについて描きました
みゆきは夜会をはじめた当初、まずは5回はやろうと決めていたそうで
6回目となるこの作品から、完全オリジナルストーリーとなっていきます
ファンの間では、三流小説みたいだと揶揄されることもあるんですが
いやいや、ちょっと待てよと
私なりに色々と推察、考察をしてみた次第です
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