河の花びらが知らない街に引っ掛かっている
海を見ずにその清らかさは汚れてゆくんだろう
死んだ女が通りを歩いている
雑踏はいつもと同じ取り立て騒ぐ事はない
恋人達が誇らしげな顔で改札も手を繋いで通る
その手もやがて離れ
別々の夜を眠る

アメリカ嫌いが口癖の男が
マクドナルドでコーヒーを飲んでいる
俺は散弾銃の買い方がわからなくて
夜更けにお前に電話するが
お前は電話に出ない
世界を壊すことはできないが
世界を止めることはできる
それはたった一人黙って舞台から降りればいいんだろう

そしてお前はプリマドンナの夢を
できたばかりのビルの屋上から投げ捨てる
それは通りに立っている全ての無関心な顔に突き刺さる
なんて
だめだ捕まってはいけない
手垢まみれの小さな狂気から離れよう
つまらないものを書き記すな
何万回もの堂々巡りはもうよすんだ

今夜ボードウォークを歩かないか
メリーランドの朽ちかけた板を踏めば
波の音が染みてくるはずだから
全てが死んでしまっても
俺達は起きている
それを確かめるために抱きしめてくれよ
見せ掛けの星が揺らめく下で
見せ掛けのキスでいいんだ
そしたら俺はお前だけにうたを作る
そのくらい雨が降らないから
なにもかもが散るんだ

ほらまた星の下で赤い蠍が燃えている
だのに不感
踏みしめた不感
つま先までの不感
腐臭
鏡を哀れむだけで精一杯で祈ることを忘れた俺達に
花が凍るように泣いている

投稿者

岩手県

コメント

  1. 鏡を哀れむだけで精一杯で祈ることを忘れた俺達に
    花が凍るように泣いている

    花のおもいを切なく感じます。
    花は、死んだ女の化身でしょうか? 花が「俺達」のために泣いているのでしょうか?
    私の思い過ごしでなければ、花へ感謝します。

  2. 哀しみを感じることのない男の視線が、ことごとく冷たい。映画を見た後のような読後感がありました。

  3. 超カッコイイ。メタファーを読み解くのはなかなか難しいが、一定のハードボイルドな視点から現れる硬質な文体で一気に読ませてくれました。

  4. アメリカっぽい。ハードボイルドっぽい。でも単なるヒロイズム、ニヒリズムで終わらないところが王さんっぽいってことかな。

  5. 拝礼。先の私のコメントで、王殺しさんの大事な思いに触れてしまっていたらすみません。先の私のコメントの私からの質問には答えなくても構いませんので。

    ただ、王殺しさんの詩、もっと言えば、作者である王殺しさんからには、誠実な優しさをいつも感じています。
    この詩からも、そういった優しさを感じます。そういう意味において、この詩と王殺しさんへ感謝します。ありがとうございます。

  6. なんだかご無沙汰してる間にみなさんの沢山の作品が生まれていて追いついてませんが、この作品は超ハードボイルドでカッコよくて大好きなやつです。後でまたゆっくり味わうために戻ってきます。

  7. 河の花びらって、かっこいいですね!

    思い切り関心を寄せているのに気付いてもらえなさそうでもやもやする、そのような心地になりました。

  8. 一編の映画を観ているような読後感がありました。「花」が、登場人物たちへのちょっと哀しい比喩になっていますね。

  9. 死んでしまった街で
    死ぬことのない声が 
    聴こえて、ぐっ・・と来ました。

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