土へ還る

夜の
あまりに底知れぬ
静けさに
耳がおかしくなりそうな

それは途切れぬ
逆撫でする
攪乱する
階調のない
無音
耳が
もがき
あがけど
耳が

闇は
濃厚で
毒を含み
ねばついて
充満して
くちびるを
汚す

僕は
堪えきれずに
ウオッカを
湯呑みで
あおる

しかし
意識は
冴え
いつまでも
途切れずに
続く
夜の
喉笛からの
色のない
うなり
破壊し
耳が
無音

花瓶に慰め
ローズマリーと
ウツギの花
僕は
手を伸ばし
遠い昔の
音楽を探す
縋るように
スイッチ探り
静寂を
壊して
ピアノの流れ
途切れぬリズム
少し陽に褪せた
匂いの歌
湯呑みに
ゆるやかな
波紋

僕は
立ち上がって
飾られた
死者と踊る
前へ
右へ
後ろへ

いつまでも
繰り返し
繰り返し
温もりを与え
紫の
ルージュが
僕を包み
カーテンがゆれて
朝を迎える

*****************
たの人のを読んで以前書いたものを今日になっ
てぼおっと眺めてたらなるほどと思って
よいしょっといじくってみたのがこれ。
みじかくしたのですこれで。長くなつた。
*****************
夜の
はかなく底知れぬ
静けさに
かき乱され
だめになりそうな夜

耳が
おかしくなる
すき通った夜
また嗚咽が胸に
せまる

それは途切れぬ
いまも逆撫で
つまり階調のない
破滅的な無音
いまも耳を
つき破るのだ
もがきあがけど

僕は堪えきれず
のどに流し込む
ウオッカを湯のみで
えんえんと繰り返す
闇は濃厚で無駄に
ノスタルジック
中毒性の
においを発し
ひどくくすみ
そねみ
無限の哀悼

しかし
しばしの慰めは
やさしくそして
と切れることなく
語るような
ローズマリーと
ウツギの花

僕は手をのばし
立ち上がって
はなやかに着飾った
死者と踊る
ぬくもりを与えるように
前へ右へ後ろへ左へ
何時間も
おどった
すみれ色の
ルージュの余韻
のぞみやしない
カーテン越しの朝

投稿者

岩手県

コメント

  1. この詩の(みじかくしたと言いますが)長さ自体が、土へ還る過程などなのかな、と感じられる緊張感とじんわり感などを感じます。
    私個人的には、夜の静けさを好きです。でも、
    夜の
    あまりに底知れぬ
    静けさに
    耳がおかしくなりそうな

    という、耳がおかしくなりそうな感じも分かるような気がします。

  2. 以前のはイメージしやすさはあるけど、リライトした方は、よりイメージを一つ一つ確実に置いていく感じがあって、良くなっていると思います。おそらく最初に書いた時より、時間が経ったことで理性的になったのかなとも思うし、タイトル通り土に還るほどの長い年月を過ごしてきた経験からくるのかなあ、とも。

  3. リライトのほうは、ひとつ前の八ツ橋さんのを見てたてよみにもしています(注釈も含めて)

  4. リライトは入って来やすい雰囲気になっていますよね。しかし初稿の“ウオッカを/湯呑みで/あおる”が好きです。
    死者と何かを共有する瞬間のコラージュを感じました。

  5. たしかに最初は思いのあるがまま進めたところがある。
    制約や時間経過によってより考えを深め感情を見極めたりの行程がありました。また、制約によりより言葉を捜し、ということはやはりより意味を考えることにつながったのだと思います。
    少なくとも3倍時間はかかる。

  6. ありがたい。実は僕も最初のほうが書いた衝動があるみたいで、今になればすっとするかも。縦読みに気を取られて再度考えると使わないなあという行があったり。「だめになりそう」なんてそう、何もなかったら使わなかったかな。
    まぁそれも含めて再考するというのは良かったかもしれないです。普段見直さないので・・

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