ロンサール
丘をのぼる石だたみの坂道でうずくまっている
ベレーをのせたあたしの夢 ただの酔っぱらい
指にこびりついているのは絵の具じゃない
細かい灰色の砂ぼこり 指の間から零れおちた砂の残骸
こんなところを彷徨っていたんだ
あたしは別れを告げたとき
ことば巧みにきみを欺いて
茶色いガラスの小瓶に閉じこめた
見えないように
あたしが二度と魅せられないように
あたしが二度とおぼれないように…
大きな枯葉を風がつまみあげて
ガサガサみっともない音をたてる
石だたみの上を引きずって降りていく
突然 あたしは気づくんだ
しまっておいた茶色い小瓶の軽さ
すっかり忘れていた間に
軽くなってしまったきみのことに
いっしょに帰ろう
あたしはもうだいじょうぶだよ
きみの肩に手を置いた一瞬
銀色にきらめく青い海の残像がよぎる
波にあわ立つ潮の香りさえよみがえる
あたしを見上げるきみの目が
ずっとさみしかったんだよ と言う
ゆらゆら揺れはじめるきみのベレー
あたしは微笑みながら涙を流す
ちいさい弟みたいにきみを抱きしめる
むかし夢中で読んだ本の匂いがする
コメント
ラスト2連の描写が印象に残り、きゅんとしました。
いつも締めが旨いんですよね。余韻を残して。
この詩の情景描写がすてきです。
ベレーをのせたあたしの夢/むかし夢中で読んだ本の匂いがする。
どうなるんだろう、と思い読み進めていって、最後でなんだかほっとしました。