メメント・モリ
僕の生まれ育った町には
たそがれ坂という坂がある
丘の上の小学校へは
その坂を登ってゆく
ゆるい上りの途中には
崩れかけた東屋が1つ
ある日そこに1人の男が座っていた
疲れ果てて座っていた
たそがれ坂の名前の由来を知っているかと僕に尋ねた
分からないと答えた僕に
男は微かに笑みを浮かべた
悲しげにそうっと言った
人生のたそがれに見える
夕陽はとても綺麗だと
男は僕に向き直り
真面目腐った顔で呟く
メメント・モリを忘るるなかれ
忘るるは則ち危うしと
30年後の今日この日
余命宣告という荷物を抱えて
かつて座った浅茅生の東屋に1人座す
夕暮れのたそがれ坂から
暮れかかる夕陽が見えた
あの時男の言った通り
それはとても美しかった
季節外れの
線香花火の
火玉が静かにぽとりと落ちた
コメント
哀しみの中に〝 何か〟がある優れた詩で、誰でも書ける詩ではないという方向性を感じました。
とくにラスト3行に、詩情を感じました。