旗振り男
工事中の看板の横
ヘルメット目深に被り
源さんが旗を振った
赤と白
風を切って
今日も土埃
この前後ろを通りがかった時
源さんが車を止めた
「申し訳ありません」
確かに聞こえた小さな呟き
おんなじ事を父も言っていた
暗い顔でぶつぶつと
だけど源さんはまるで涼風に薫る甘夏の如く
歪まずに大気に溶けた
源さんは何時も公園で飯を食べている
黙々と粛々と
ある日黙って僕に言った
「仕事はするんじゃない、させて頂いているんだ」
年寄りの戯言だと笑い飛ばす事も出来た
旧来の陋習と非難する事も
僕が見つめたのは
古ぼけた2本の旗
今日もまた土埃
車のクラクション
工事の音
源さんがまた旗を振る
風を切る
休み時間に家の庭にある
木に実がなりそうだと嬉しそうだった
「今年もまたなるよ、甘夏」
コメント
そーゆー小生も若かりし頃旗振り男でしたよー知らんけど。