満月

この辺も昔狼がいたんだって
ひいじいちゃんは捕まえたんだけど
ちっとも慣れなくて
ずっと牙を見せてたって

虫の声だけが外の気配
何杯目かの濁った酒をお互いにつぐ
でも瞳は色が互いに違うな
きっと俺と違う世界が
見えてるんだろうね

今はおなじよ
やがて甘い匂いの酒を
甘い唇から移してくる

最近は酒を飲むとからっきしだ
若いころは飲めば飲むほどえらいことになったのにな
牙はどっかにいったよ

あはは バカね
お前はあばずれの指で握り
今日は満月だからおもてで しよ

月が大きい
照らされて輝く
蓄積された太陽が
静かに発せられている
薄木が二人に合わせて揺れる

昼間の世界は嘘なんだろう
ヒマワリがおわった
ハンゴンソウがおわった
花火のように
とけて消えてった

あはは バカね
人生の半分は昼で
人生の半分は夜よ

お前は月をにらむように
背中をそらせ
あごを高く
狼の咆哮をくりかえす

投稿者

岩手県

コメント

  1. たちまこ・大覚さんに続いてエロい。特にこの詩はリアルでエロい。満月の下、狼になる女に翻弄される感じがいいなあ。男は結局みんなMなのかな。

  2. 今はおなじよ
    台詞ってなんで浮き上がって見えるんだろう。
    王さんの詩、花鳥風月がナチュラルに登場するところが好きなところで。かっこいいなあ。
    あと、楽器を弾いているみたいだとも思いました。

  3. ふたりの会話の交換、もっと言えば愛のやりとりは、生々しいたましいの融合に思えます。
    この詩からは、満月のもとで、ふたりのいのちのエネルギーなどを感じます。すてき。

  4. あはは バカね
    人生の半分は昼で
    人生の半分は夜よ

    この連が効いていますね。それまでの、男女のやりとり、男の独白を、この三行が上手く受けている。最終連での、狼の咆哮…。官能的であります。

  5. ぬおー、いつから官能詩祭りが始まっていたのだ。
    しかしこの行為中の会話のような、それをみている人の語りのような、これまたたまりませぬ。

  6. コメントみなさまありがとうございます。
    こないだの満月は久々にすばらしいと思う満月だった。

    花鳥風月は素直にとてもうれしいです。高浜虚子の俳句はどれも好みではないのですが、花鳥風月を背景に人を見、自分を見るのが自分の生業かもしれない。

    若いころは飲めば飲むほどえらいことになったのにな
    には誰もつっこんでくれなかった(笑)

  7. エロいなあ。秋は苦手だけど、ぼくもこんなふうに昇華させてみたいです。
    あばずれの指。すごいパワーワードです。
    ぜったいに気持ちいいやつです。

  8. とても印象的な、月夜のお酒と場面を掻き立てられました。

  9. 「語り口調」と「地の文」のバランスのとり方が、作品としての質を高めているのだろうなぁ、素直に思いました。

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