りんご狩り

靴を脱いでから
木に登るのがマナーらしい
でもその木
登った先が海だった
イルカが空を跳ねるたび
糖度15.6って空間に
ポップアップが表示される

選果場のAIは
完熟りんごと
嘘の記憶を仕分けしていた
あなたの初恋
実は存在しませんでした
と表示された実を
お前は口にした

その瞬間
園内放送がファドになり
係員が全員
スフィンクスに変わった
ひとつだけ
普通のりんごを見つけたら
中から教科書のページが
折り畳まれて出てきた

りんご＝重力と書いてある
でも重力がどこかへ落ちていた

園内には
りんごの皮を編んで
作られたブランコと
無言で揺れている
誰かの幻影

お前は言った
これ
わたしが捨てた未来だ