りんごの中から人類が生まれた日
最初のりんごは
地面じゃなくて
空からぶら下がってた
重力はまだ赤ん坊だったし
神は
うまくできたとか言って
歯でその皮を剥いた
芯の奥に
蠢くゼリー状の胎児たち
甘くも苦くもない知恵の前駆体
それが人類だったんだ
はじめに声を発したのは
種でもなく神でもなく
腐りかけの果肉だった
おまえら
まだ未熟だぜ
皮はやがて言語になり
蜜は戦争になり
落ちた先で文明が芽を出した
ビッグバンじゃなく
ビッグバイトだった
齧ったのは誰か?
イブじゃない
たぶん無名のカラスだった
りんご園はいつのまにか消え
残された人類は
自分が果物だったことも忘れ
棚に並んでるだけの
存在になった
時おり誰かが囁く
お前の芯はどこへ行った?
そう言って
また誰かの
皮がむかれていく
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