たいせつなたたかい

あなたを守る、と言って

わたしは娘として育てられた

野菜たちがたいせつに、あすの
食料として植えられている、畑を

ふみにじり、戦車が行く

欲でもなく、
しかたがなく、
誰かを守る戦いと、いって
街を守る戦いと、いって
はじまったものが、
地獄に堕して、

キャベツやレタスやクレソンを

ふみにじりながら、戦車が行く

母はわたくしを、
戦うようには育てなかった、

ただ生きるように育てた、
だから、わたしは泣き虫で、
だから、わたしは弱虫で、
ほんの少しのことにづまづいて、

大きな泣き声で、
ぬいぐるみを抱きしめる 月。

ちぎれた腕、
とれたボタンの目……。
かなしんでいる、ほつれた膚。
毛糸。
……毛糸?

わたしはロ国をなじらない
わたしはロ国を責めはしない
わたしは、
この国をも責めはしない、
街を都市を
それらは、家の集まりなのだから

あなたを守るよと言って

わたしは娘として育てられた

けっして産まない性としての、私

だから、結ばれない……

ミサイルを
砲弾を
讃えないでください
あの銃弾を……。

でも、
あの人たちを称えてください。
人である
あの人たちを称えてください。
人を殺す、
あの人たちを称えてください。

なぜなら?
空は青いから?
ちがう。
雲は白いから?
ちがう。
風は冷たいから?
ちがう。
神様はいるから?
それもちがう。
お魚は川や海に泳いでいるから?
それも、ちがう。
どれも……ちがう。

キャベツやレタスやクレソンは、
今日のためにあったのに、
その今日ですら見られない人が、
ここにいるのだから、
だから

あの人たちを称えてください。

これは、“たいせつなたたかい“で

“むずかしいたたかい“

けっして、“かんたん“なんかじゃない。

今から言うことを
忘れないでください
今から言うことを、
忘れないでください、ぜったい。
でも、今から言うことを
忘れてしまってください、いつか、
と……

あの人、母は言ったよ?
父と手をつなぎながら、
言ったよ?

“これはたいせつなたたかいだから“、

“てばなしちゃいけないの!“

殺された誰かを、
神様がおふとんに乗せる
壊された野菜を、
人が、また鍋に入れる
でも、殺された鳥たちは、
救われないまま……だから、

これが残酷?
これが残酷。
残酷はもっと他にもあって……

でも、今は、ただ勇気だけがイルノ。

あなたを守る、と言って

あなたを娘として育てましょう。

あなたを息子として育てましょう。

あなたたちを我が子と言って。

──
空の鳥がけっして殺されないように
キャベツやパセリやラディッシュが、
けっして壊されないように

あなたが温かな日の下で、
いられるように
いられると祈って。

キャベツやレタスやクレソンを

ふみにじりながら、戦車が行く

欲でもなく、
しかたがなく、
誰かを守る戦いと、いって
街を守る戦いと、いって
はじまったものが、

地獄に堕して、

でも、
なじらないで。
あの人たちをなじらないで。
あの人たちもやはり娘で、
やはり息子なのだから、
あの人たちをなじらないで。

あの人たちをなじらないで。

あの人たちをなじらないで……。

あの人たちをなじらないで……。

空が青いからでもなく、
雲が白いからでもなく、
神様がいるからでもなく、
風が冷たいからでもなく……
海や川に魚がいるからでもなく、

あの人たちを、なじらないで。

あの人たちに、優しくして。

投稿者

宮城県

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。