鯉のぼり川
古いガードレールのゆるい傾斜路を
下りながら眺める町なかで目立つ
くすんだ赤褐色の屋根瓦
それらを隔てた川縁の
土手の並木は俄かに濡れはじめて
目に映る新緑とのコントラスト
薄雲で遮られる陽ざしが
ほとんど無いような風を懐へしまい込む
はや足で民家の脇道を抜けて行くと
深くもない川の両岸から
張られたロープで吊るされる皐幟
雨にとりまかれて
尾鰭をまっすぐ垂れる鯉たちの
連なったいろどりは、濃淡を増し
どこか生々しい
折り畳み傘の柄を握りしめて
ふと 見入ってしまう
静止したままでシオザカナの様な緋鯉
あの一旒は、凪いだ溟い川の流れに
とてつもなく退屈な想いを声にも出さず
潜ませているのかもしれない
立ちさわぐ風に煽られれば
そぼ濡れる鯉たちの膨れる胴部は波打って
行きあたりの無い天上へ逃げてゆく
清冽な水を、追いかけるだろう
おり重なって東へ走る雨雲と
川面をなぞっていく風に
群れる鯉は生きて、わたしの立つ
地球の表面で目を見開いている
コメント
鯉のぼりの、生々しい姿が詩から浮かび上がってきました。水のイメージが被っているかもしれませんね。
美しい詩です。
@長谷川 忍
様
読んでくださって、どうもありがとうございます。ご感想のお言葉を戴けて嬉しいです。
ずいぶん昔に見た記憶を辿って描きました。
@こしごえ
様
お久しぶりです。読んでくださってコメントを、どうもありがとうございます。
美しいと感じていただけて嬉しいです。