帰り道、揺れる車内
パタリと本を閉じた
途端に周りの音、景色が
私を現実へと引き戻す
ガタガタと揺れる車内に
人気はなく
ただ煌々と輝く夕陽に照らされていた
ゆっくりと身体を伸ばす
それまで固まっていた血液が
再び巡り出し少しの痺れを覚えた
ふと、窓に目をやる
思わず目をつむってしまうような斜陽が
藍の空と海を美しく彩っていた
それはまるで車窓の枠を
額縁とした一つの美しい絵画のようで
ひとつため息がこぼれる
…
頬に温かいものが伝う
いつもそうだ
この景色を見ると
何かを思い出すように心が揺さぶられる
何か遠く
ついこの間とかではない
ここでない、どこか遠くむかしを
茜色に濡れた手
夕暮れの帰り道
ただ、静かに落ちていく夕陽
列車が弾み
はっと我に帰る
吊革が小刻みに揺れている
もうほとんど日は落ちていた
私は再び、そっと本を開き
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コメント
電車からの車窓風景は不思議ですね。見馴れた光景でも、天気の具合や季節によって、その時の気持ちで、見え方が違ってくる。それが懐かしい光景であれば尚のことでしょう。共感がありました。
@長谷川 忍
コメントありがとうございます。
この詩は1人で旅行に行った時に書いたものです。
電車の窓いっぱいに広がる夕景色があまりに綺麗で、懐かしいような、切ないようなそんな気持ちでいっぱいになったのを覚えています。
夕陽には人をそんな気持ちにさせる何か特別なものがあるような気がします。