十字路にて

話にすこし夢中になってたらしく
先頭集団は見えなくなっていた
まずいまずい僕らは行く場所を知らないんだ
あわてて足を急がせる

しばらくしても姿が見えない
追いつけないことに焦り始める
警察官がコニファーの生垣きに
ネズミ取りで隠れていた

すみませんすこし前に
集団が通りませんでしたか

警察官は大変めんどくさそうに
十字路をまがった、とだけ言って
さらに身を潜めてしまった

僕がみんなにちょっと先に見てきますと
ディオールのB24で走り出す
足がやたら重いなと
走りながら思う
運動不足だろうかな
十字路までくると右だか左だか
聞いてなかったことに気がつく
ああもう
右に姿はない
左に姿はない
こんなに離されるものかな
汗は吹き出すが
周りはやたら静かだ
後ろを振り返る
誰もいない

我に返ると
そこは何もない十字路で
一周ぐるっと
どこもかしも見渡せる
車もない
あったはずのガソリンスタンドもない

ああここは十年前に
山とみまがえる
海に飲まれた町だった

投稿者

岩手県

コメント

  1. この人は走っているのですかね。
    長距離走?
    最後の方、何も無くて誰も居なくて悲しかったです。

  2. もう10年も経つのかと。
    あれからそれぞれみんな何を考えて何を行動し何を変えて(あるいは変えずに)来たんだろう。

  3. たちばなさん
    行く場所がわからない長距離走は考えるだけで目が回るな。
    何もないってことはゴールもない長距離走かな。それは倒れそうだ。

    あぶくもさん
    たしかにその通りだなあ。何を、もしくは何も、でここまで来た気もします。

  4. 十という文字がゲシュタルト崩壊して、それは墓標でもあるし、呆然と突っ立っている人の姿でもある。見方を変えると+や×だったりもして、後から色んな意味を想像(創造)したくなる。

  5. そっちの方向にもっていくのもあるなぁ。

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