夏夜

湿っている
急ぎ過ぎて梅雨を追い越してしまった夏の気配だけがホームに留まっている
髪がはねるから嫌いだと
貴方は言っていたけれど
僕はそんなの分からないから
別に同じだよとか適当に笑った
電車内の冷たい空気と
混じり合うぬめった外気に身を晒す
きっと今日がこうなら明日もひとりこうやって発車を待つことになる
140円の黄金色の液体を飲み干して
舌に残った僅かな苦味と腹の底に巣食った炭酸を
吐き出せない言葉に代えてため息を
まだ明るい街に放り投げた
イヤホンを差そうとして辞めた
騒がしいギターを聴いていれば
軋轢の音は聞かずに済むけど
誰かの助けを聞き逃してしまうから
かもしれないから
どうせ誰にもかける言葉は無いのに
こうやって何かを待つ振りをして
気まずさをずっと反らしているんだ
夏の夜にそれが暴かれないように
ホームの端に立って電車を待つ
僕は少なくとも待っている
あと2分でやって来る電車を
何億年にも感じながら一人で
子供の時と同じ様にただ立って待っている

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