僕は帽子
大きな帽子を被っている
デザインは古い、生地はしっかりして、裁縫も丁寧な仕事をしている
いつしか、僕の本体は帽子であると気づく
何故なら
僕以上に僕らしい、僕はこうあるべき存在だと、常に指針を示してくれるからだ
就寝、起床、通勤、仕事、食事、入浴
全て帽子の指示通りにしている
勿論、狂人じゃない、言葉は聞こえない
ただ、知るんだ
帽子が何を望んでいるか、何をしてほしいか
被っていると自ずと行動している
ある台風の日、何と僕自身である帽子が、強風に吹かれて空に消えていった
同時に僕も、空を飛んでいた
帽子は僕なのだ、人間の身体など要らない
こうして僕は帽子になったんだ
風に飛ばされた帽子は、ある家の庭に落ちる
家の持ち主は、古風な帽子を気に入り
きれいに手洗いして乾かした
そして帽子を被る
身体を手に入れた
僕は復活した
帽子を被った人、全てが僕になる
僕の帽子を、世界中の人に被ってもらおう
僕は、斯くあるべき存在である
そう、全てが僕になる
人間、全てに指針を示さねばならない
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