書き置き

声帯が未遂に終わった
夏の初めの頃
植物は止まり
蟻の巣は時間をかけて
退廃していった
立てかけられた
日傘、と
ひとつまみの酸素
光化学スモッグの半日は
残務整理に費やされた
川の清い流れが時々あり
訪問医のポケットから
漏斗が溢れては消える
そんなことの繰り返し
点呼の済んだ風の切れ端が
段落の隙間を埋めていく、と
それはおそらく
行方を晦ましたわたしたちの
書き置きだろう

投稿者

コメント

  1. 一行目からバイブス上がりました。
       訪問医のポケットから
       漏斗が溢れては消える
    相変わらず天才かと唸りました。

  2. 初夏の空気感と、物語の不安定さにやられました。段落の隙間を埋める風の切れ端ってなんて素敵なイメージだろう。

  3. 詩的情景描写の おもしろ味を感じさせる詩であると思います。

    それはおそらく
    行方を晦ましたわたしたちの
    書き置きだろう

    そして、最後の方、ここで、いいね、を決めました。

  4. @たちばなまこと
    たちばなまことさん、コメントありがとうございます。
    訪問医も漏斗も今まで使ったことないなあ、と思っていて、いつか使おうと。
    病院に勤務していたことがあって、院長先生が自ら暑い最中でも小さい車ででかけていて。漏斗は与えられた機能があるのに、何か形状の美しさと不完全さのようなものがある気がします。

  5. @トノモトショウ
    トノモトショウさん、コメントありがとうございます。自分で書いたくせして、段落の隙間を埋める風、気になります。
    満たしていく、そしてさらっていく。そんなことの繰り返しなのかもしれませんね。

  6. @こしごえ
    こしごえさん、コメントありがとうございます。時々無性にこしごえさんがおっしやる「詩的情景描写」を書きたくなります。暴力的に、といっても過言ではないかもしれません。毎日、どこかで、読まれることのない書き置きを書いている気がします。

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