
おもいで
この街にはふたつの大きな橋がある
ひとつめの橋のふもとには
うすももいろの桜が咲きほこる
桜の花びらは
川の水面を埋め尽くし
岸の小石を埋め尽くし
土手の砂浜を埋め尽くす
そんな桜の花びらの間を
色のついた板が流れてきた
陽気な春の陽ざしと共に
板の上には子供が乗っていた
子供がずっとオールを漕いでいると
ふたつめの橋に行き着いたらしい
ふたつめの橋のふもとには
赤い椿が咲きほこる
椿の花びらは
橋の敷石を埋め尽くし
梁の下面を埋め尽くし
川の水面を埋め尽くす
赤い椿達の間に差し込む
春のあざやかな陽ざしは
水面の赤い花びらを照り付け
うすももいろの花びらをも照り付け
小魚達の銀の鱗を照り付けた
ひとつひとつのさざ波の煌めきも
川底の小石の煌めきも
明日には遠い思い出となって
ぼくの心を締め付ける
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