夏の夜に
ズズッズズッ
熱さとその音で目が覚めた
僕の寝室にはエアコンがない
リビングにひとつあるだけだ
だから寝る際には窓を全開
扇風機を回す
ズズッズズッ
音が窓から入ってくる
僕の部屋はアパートの2階
開け放たれた部屋には
その音がどんどん侵入してくる
ズズッズズッ
空き地の多い新興住宅地
車一台通るくらいの私道を
何かが何かを引きずっている
ズズッズズッ
音が段々と近づいてくる
引きずっている何かは重いのだろう
ポツポツとしかまだ家の建っていない住宅地は不況の中、なかなか家が増えない
僕の住んでるアパートも10部屋もあるのに3部屋しか入居者がいない
そんな住宅地の道を何かが何かを引きずっている
何時なんだろう?
携帯を手に取り時間を見た
午前2時半
あーやな時間に起きたものだ
目をつぶってベッドに転がる
ズズッズズッ
まだ引きずる音が聞こえる
気になって眠れない
いったい誰だ?
いったい何だ?
ずっと引きずるその先は川しかないぞ
僕は怖かった
熱帯夜の熱さと想像の恐怖で
汗だくになった
とても眠れない
何が知りたい
見てみたい
今窓から身を乗り出せば
街灯のほのかな明かりの中
どんな姿でどんなものを引きずっているのかチラリとでも見えるだろう
でもいやだ
知るのはいやだ
アレは絶対…
熱中症になりそうだ
汗が引かない
苦しい
見たい
知りたい
それ以上にコワイ
ズズッズズッ
音は遠くなった
ああ
恐怖に勝てなかった
僕は臆病者だ
そして僕は熱さにも勝つことができなかったようだ
太陽の暑さでまた目が覚めた
え、僕は寝たのか?
気絶でもしたのか?
いや、あの音、覚えている
仕事行かなきゃ
汗だくの身体、シャワー浴びて
何も食べたくない
支度をしながらドアを開ける
階段を駆け下りながら
僕は川とは反対に大通りへ向かう
なあんだなんにもなかったようだ
あの音は熱さに負けた耳鳴りでもあったのか
いやちがう違うよ
大通りに向かった足は
一気に向きを変え川のもとへ
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