八月九日

午後になった
扇風機をとめて
水を届けに出かけた
ひび割れた路面と短い影
歩く時も俯く癖があった
草刈の辺りで風鈴売りとすれ違う
音、聞いたのだからお代を、と
干からびた掌を差し出してくる
俯いたままでいると風鈴売りは
何も取らずに去っていった
途中、何度か水をこぼし
我慢できずに口をつけ
着く頃には半分ほどに減っていた
逃げ水か
と主は言った
冗談なのか本気なのか
終始、顔を
上げることが出来なかった

投稿者

コメント

  1. まず郷愁がありますよね。それから幻想的で、ホラーの要素もありますよね。一瞬冗談を入れるのも夢想的になりすぎないような良い効果がありますよね。傑作だと思いました。

  2. この物語性に何度も背景を想像しながら読みました。素晴らしいです。

  3. @たかぼ
    たかぼさん、コメントありがとうございます。
    傑作というお言葉ありがたくいただきます。
    夏は人をちょっとだけずれた異世界に誘いこむような気がします。

  4. @あぶくも
    あぶくもさ、コメントありがとうございます。作者が言うのもなんですが、私も物語の背景を想像しています。

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