さっちゃんの恋人

笑いぼくろが口元の右にある人

とお絵描きしりとりをしながらさっちゃんは言った

さっちゃんが何を書いているのか、あまりに緻密で私には解らなくて

ただ、笑いぼくろってなんだろ、と事の成り行きを見守っていた

さっちゃんは45歳

私は7歳だった

***

さっちゃんはとても頭が良かった

優しくて勉強ができた

料理も洗濯も誰よりも速かったし

でもすごく変な恰好をするので

昨日は石を投げられたって悲しそうな顔で言ったりする

***

お絵描きしりとりの後

私は失恋をしたり

学業を修めたりした

笑いぼくろがなんのことか分かって

さっちゃんが冗談を言っているわけでないことも気付いた

でも

さっちゃんがあの時書いたしりとりの続きは永遠に理解できない気がする

***

さっちゃんみたいな人が

時々親戚に生まれることを

誰も教えてくれない

彼らは叔母として物語を継ぐ運命にあるとラノベには書いてあった

つまりそれは文脈と呼ばれるものの話だと思うんだけど

さっちゃんも美しいひとだった

叔母は皆美しいのだ

時間の流れを知っているから

***

さっちゃんの年になってみて思うけど

お絵描きしりとりってあんなに難しいもの書く遊びだっけ

私に分かるものでお願いします!と父に敬語を使われてさっちゃんはけらけら笑っていた

子供みたいに

***

さっちゃんはその後行方をくらましてしまった

もしかしたら

笑いぼくろを発見して捕獲に成功したのかもしれなかった

なんとなく、なんとなくだけど幸せになってるだろうなって感じる

いつも私達に優しかったし

後になって分かったことだけど

さっちゃんが言ったことは良く分からないなりにいつも正しい

少なくとも

私が書いたおにぎりよりもおいしそうなシチューが書ける

***

時々でいいから

手紙をくれないかなぁ

人は一人じゃ生きていけないんだよと学校でしつこく教わったものだけど

教わらなくても

私はさっちゃんがいないと寂しいから

二人とか三人とかで生きていきたい

投稿者

神奈川県

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