幼いヤコブの死

幼いヤコブが死んだ
通りがかりの旅人が埋めた
弔いの言葉が添えられ
墓石の代わりに
ヤコブより背の低い
バス停の木が植えられた
幼い死の尊厳は守られ
旅人は旅を続けた

バス停の木はスクスクと育ち
立派なバス停になった
けれどいつまで経っても
バスが停まることはなかった
バスなど来るはずもない
一面の荒野のような所だった

他に何も目立ったものも無いから
木は旅人たちの目印になった
一年に数度、実が成り
味は何てことなかったが
歩き疲れた旅人たちに水分と
僅かばかりの栄養を与えた

人間にとっては
とても長い年月が経ち
木を植えた旅人は旅路の果て
息を引き取った
木からも旅人の死からも
遥か遠く離れた街の片隅で
バス会社が設立される
小さな音がする

投稿者

コメント

  1. 「バス会社が設立される」でぐっと来ました。この懐かしいような寂しいような不思議な気持ちはなんでしょう……。どこか四角く切り取られた風景が見えるようです。

  2. @大町綾音
    大町綾音さん、コメントありがとうございます。
    陸の孤島に住んでいるので路線バスは大切な交通手段です。2024問題の煽りを受けて減便されてしまいましたが。
    片田舎だとバスそのものよりも、バスの会社や営業所とも関わりがでてきます。定期や回数券を購入しに行ったり、忘れ物をとりに行ったり。
    四角く切り取られた風景はバスの窓から見るなんて事のない、けれど懐かしい季節の風景かもしれませんね。

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