三連詩 神と亡者
『次の人』
天使は約定を破棄し
人間界に姿を現し給うた
神々しき天使の軍団を率いし
大天使ミカエルはいう
人間よ
よく聞きなさい
今より、悪人を我らの手で裁き
地獄に堕とします
地上には、巨大なコロッセウムが現れる
全てのTV、ネットに光景が映し出される
アリーナ(円形闘技場)の中央に
人間が数十人現れた
円形の客席は、天使で埋まっている
大天使レミエルはいう
全ての国の国家元首たちです
一人ずつ、悪人ではないと述べなさい
最初に、超大国の大統領が壇上に上がる
私は、敬虔な信者です
正義を行ってきました、悪人ではないです
巨大なスクリーンには
これまでの行いが映し出せれた
大天使レミエルはいう
天使たちよ、裁定を
客席の天使たちは、大声で叫ぶ
悪人だ、罪人、罪人、地獄へ
うろたえる大統領
客席1階に設けられた
貴賓席に座る
大天使ミカエルは立ち上る
客席の天使たちは、大声で叫び続ける
悪人だ、罪人、罪人、地獄へ
大天使ミカエルは右手を前にだして
親指を、下にする
客席では大歓声が上がる
怯える大統領
と、瞬く間に身体は腐り
血溜まりのみを残して消えた
大天使レミエルはいう
次の人、壇上へ
✳
核戦争がおこったのだ
各国の
巨大シェルターに避難出来た人間は
1割にも満たない
数十億の人間が犠牲となり
地上は地獄と化した
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『引っ越し』
核戦争がおこったのだ
1割の支配層だけは
巨大シェルターに逃げ込み
数十億の人間は犠牲となった
天使たちは
チャンスとばかりに人間界へ侵出する
天使たちが約定を破り
人間界に現れたことは
地獄でも、大ニュースで取り上げられた
アモン公爵はいう
癪に触る、嘘つき天使どもめ
戦争だ、人間界へ向かおうぞ
マルバス長官はいう
しかし地獄は、新しくきた
数十億の亡者たちで混乱している
悪魔に逆らう、不穏な動きもある
大変です
亡者たちが、待遇改善を訴えて
数十億の大軍でこちらへ向かっています
ええい、悪魔どもは何をしている
とても敵いません、桁が違います
城の周り、全て
180°、地平線に届くまで
数十億の亡者たちに囲まれている
不満を訴える亡者たちの叫びは
地響きをあげて城を揺らす
・
地獄のバエル王はいう
とても敵わない
仕方あるまい、これまでじゃ
人間界へ、亡命するのだ
地獄ごと全て、引っ越すぞ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『暇つぶし』
人間界にて悪人裁判を繰り返す天使たち
亡者に追われて人間界へ逃げた悪魔たち
いづれも
人間界にて日常を送る
不穏な噂をきく
地獄から、数億兆の亡者が
人間界と天国を目指している、と
冷笑するには、数が多すぎる
地獄の門
地獄から遥か上にそびえ立つ
亡者たちは、身体を組み合わせ
亡者の塔を高く、高く伸ばしている
大天使ミカエルと
バエル王は、密かに一席を設ける
人間の街
繁華街のマクドナルド
2階の席で
高校生に変身した2人は話し合う
周囲は、学生や主婦で混みあっている
大変だったようだな
ああ、数が多すぎる
どんどん増えて、兆を超えたらしい
それで、何の話しか
おそらくは、近くに
亡者は人間界に押し寄せるだろう
絶句する大天使ミカエル
人間界は、亡者に呑み込まれる
相談だ、天国に我々を受け入れてほしい
うむ
もとは同じ種族、持ち帰り検討しよう
すまぬ
それでも、あの人は何処に行ったんだろう
全くだ、お隠れになったままだ
2人はため息をついて別れた
バエル王、大変です
どうした
ついに、亡者たちが人間界に
沈黙
外を見ると
3千mに届く、蠢く亡者の山があちこちに
暗然とバエル王はいう
だめだ、間に合わない
人間界は
地獄から溢れ出た亡者たちにより
物的に占められようとしている
海は、既に亡者たちで埋まり
地上も5千mに届く
残された人類、天使、悪魔は
14ある8千m級の山脈に、避難する
このままでは天国も
あっという間だろう
絶望に顔を曇らせる
大天使ミカエルとバエル王
来ました!
雲の上に迫る亡者の海
神よ
ん?
迫る亡者の海にいる
一人の亡者の顔が見える
おい、あれ
ああ、神さまだ
かーみーさーまー、何をしてるんですか
目線が合う
神さまは2人のもとへ
やあ、久しいね
ミカエル、バエル、元気ないな
神よ、お救い下さい
ああ、これ
亡者たちを振り返る
いいよ
人差し指を、鳴らす
パチン
数京に届く亡者たち全て
風船が割れるように消えてしまった
どうして、このようなことを
ああ、暇つぶしかな
瞬く間に元に戻る人間界
各々、戻りなさい
そうして神さまは消えてしまった
長いため息をついたあと
大天使ミカエルとバエル王は握手し
じゃあ、また
と、それぞれの世界へ戻った
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