TSの逆襲
TSとは詩人の名前である
(あなたが誰を想像しようとも)
環状線を乗り継いで
厭世橋の駅で下りると
寂れた商店街がある
絡繰町方面に三十メートルほど進み
乾物屋と不動産屋の間の細道の奥に
古いアパートがあって
今にも崩れそうな錆びた階段をのぼった先の
二◯五号室にて
TSは女を犯したことがある
キルルとした瞳
ハララとした細い髪
そしてネリリと濡れた股の間に
TSの陰茎が捻り入っていくと
女は喜びと悲しみで涙を流した
(それは合意の上だと思っていたが、後になって強姦だったと主張した)
不公平だよなあ〜
お互い気持ちよくなったのにさあ〜
TSは名誉のために自殺を考えたが
一人で首を吊るのは虚しく惨めに思えて
インターネットで心中相手を募集したところ
TSのファンだという少女が手を挙げた
(きっと嘘だろう)
結果的にTSは死にきれず
少女だけが自殺に成功してしまい
死体は近くの穢土川に捨てた
(まだバレてはいない、だが時間の問題だ)
TSにとって詩とは生き様であり
そのあたりの鈍らなポエマー(笑)とは一味違う
何人かの聡明で熱狂的な愛読者を除いて
現代詩壇は彼を無視し続けた
なぜなら権威が破壊されてしまうからだ
ほら、おまえもそうだろ?
詩人気取りのおまえはこんなの認めたくないんだろ?
二◯五号室を出て
国道沿いを真っ直ぐ歩いていくと
大中小学校が見えてくる
TSもここの卒業生だが、中に入るのは何年ぶりか
当時のことは何も覚えていないが
教室から子供たちの声が聞こえてくるので
バックパックからバタフライナイフを取り出して
今から皆殺しを始めるぞ
なんの罪も負わない者などいないのだから
コメント
詩人でTSと言えばTSエリオットとTonomotoShowしか思い浮かびませんが、ある詩人に対するオマージュのような、懐かしさを感じました。
TSとは上手いこと言ったもんだなー。嫌いだと言ってた詩人と同じイニシャルだと言う発見から言葉をサンプリングしてくるセンスよ。
この詩を拝読して、のっぴきならない 詩人の性(さが)と業を感じました。ある種・ある次元の迫力も感じます。
この作品を語るのはとても良いからカルタシスがあるのかな
と思いながら読み進めていたら、さくさくと殺人予定現場に
到着して最後のへんで怖い無敵な人を演出して終わっちゃった
から、なにか違う面があるだろうと
うーん。
読者ともにカタルシステム、ハロートランプではなく、
おなみだ頂戴失恋ポエムとはとても距離とっているし
いろいろ考えての実験作詩というところが良いのかな?
わからんけど、勉強になった。ありがとうございます。
ポエマー(笑)のところが妙に印象的で、作品のどこか胸くそ悪い、どこかコミカルな部分といい感じにコラージュされて、幾度か振り返ってしまうのでした。