…君は

……君は誠の中の誠だった
君が微笑むと僕の胸を水滴が潤し
君の黒髪に触れると清流が染み渡っていく
波に連れ去られ
遠のく思いに君を見つめると
君は頰を染め目をそらし
それから意を決したように見つめ返す
危うく僕を呑み込みそうになった渦巻く淵から
救い出してくれた君
その
ほっそりとした
白い腕の
確かさよ
握った指先から
照れ隠しの静寂を押し退けて
君の歓喜が溢れ出す
僕の感喜が応えて
ふたりの念いが交わり遂げる
奔流一過の
しめやかな夜
情念は已まず
すぐにも再蠢動する
一つまた一つ咲き出す
また匂い立つ紅薔薇
白百合の花
むせ返るほど
凝縮された闇
両目を閉ざして眩く
肌をさらして熱く
なおも焦がして熱く
とめどなく、熱く――
――朝の光がなだれ込む
虚しく寝床を這って
空を掴む手に
訝しげに瞼を上げると
彫琢された
半身像のマリアのような
うなじが見えた
数刻前になぞった
緩やかな背中が見えた
陽光よりも透き通り
寝床の温もりよりも懐かしくーー
君は羞じらいがちに振り向き
また恥ずかしそうに顔をそむける
薄いカーテンの隙間から
漏れ零れる光の粒子を
君は全身にまとって
後ろ向きのままに
ベッドからすっと立ち上がる
そのしなやかな肢体は
まるで海の泡から生まれる
ヴィーナスの夢のようだった

投稿者

茨城県

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