詩を書くこと
詩を書くということ——
それは、沈黙の底に指を伸ばすこと
誰にも届かない心の隅を
言葉でそっと撫でる行為
世界はいつも、速すぎる
ニュースが流れ、人が流れ、時間が流れる
けれど詩だけは、流れに逆らう
詩は立ち止まり、呼吸し、見えない痛みを拾い上げる
詩を書くとき、私は世界を観察しているのではない
世界に観察されているのだ
言葉にすくい上げた瞬間
私は「見る側」から「見られる側」に変わる
詩は誰かを救うためのものではない
それは、私自身が崩れ落ちないための綱
夜の淵で震える心を
言葉という糸でつなぎとめるために書く
詩とは、真実を語る嘘だ
現実の中に潜む感情を
比喩とリズムで包みながら
より正確に伝えようとする、矛盾の芸術
詩は答えを出さない
むしろ、問いを増やしていく
だが、問いがある限り、人は考える
考える限り、人はまだ生きている
詩を書くとき、私は世界を修復している
誰も見ない傷口に、言葉という包帯を当てる
たとえ誰にも読まれなくても
その瞬間、私の中で確かに何かが呼吸を取り戻す
詩は小さな祈りだ
神ではなく、人間のための
他者を理解するためではなく
他者を受け入れるための
そして気づく
詩を書くことは、生きることと同義だと
呼吸のように、涙のように
自然に、抗えず、こぼれ落ちるもの
だから私は書く
書くことで、まだここにいることを確かめる
詩を書くとは——
沈黙に名前を与えることなのだ
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