晩秋

オレンジの花屑が風に流されていく
何もない南へ向かって
かなしいね、って
きみはぼくを見ないまま言った

夏はとっくに死んだのに
ぼくはまだ受け入れられなくて
もうどこにもない夏のかけらに
手を伸ばそうとしている
まぼろしでいいから
この指先にふれてほしいんだ

冷たい風に
吊るされたなきがらが揺れてる
誰も気を留めないまま
そのうちに消えていく

黒々とした樹々の
何かを真似た輪郭に
視界のすみを焼かれながら
ぼくはただ歩いている

投稿者

東京都

コメント

  1. 切なさの濃度が爆上がりしてますねー
    この詩の終わり方が好きです。

  2. この詩を拝読して、夏の死を受け入れるということを思いました。
    ああ、ここ雪国の冬が来る。山の上は、この間から雪が積もっては解けています。来週中位に、この里にも降雪があるらしいです。
    夏が死んだ、という表現が新鮮です。

    かなしいね、って
    きみはぼくを見ないまま言った
    というところが 特に好きです。

  3. つい、この間まで夏だった。…その夏の残影と、晩秋の光景が、静かに、哀しく、交差していますね。最終連目、余韻が残ります。

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