遺書

青と白のまだらの空に 火葬場の煙突がそびえて
他には何もない
鳥が鳴き 風がそよぎ
君はマックシェイクを飲みながら言葉もなく泣いている
マックシェイクか
どれだけ君が火葬場の甘やかな人の死の匂いに
混乱させられているかが分かる気がした

下を見ればきりがないとも上を見ればきりがないとも言うけれど、隣を見ても同じことだ

人はみな何かに憧れているが
憧れがそのまま現実に存在するわけではない
あくまで、そうなればよいと思った想像を現実にできると信じてしまうだけだ
信じることでしか人間は生きられない弱いものだから
僕は君からマックシェイクを取り上げて今晩空いてるかと聞いた

信じているだけだということを自覚しても死ぬことに辿り着くわけではない

絶望は人を殺さない
虚無は心を癒す
夜などというものを作ったのは神だ
太陽が昇らなければ
僕らは死ぬこともなかった
ただ走り続けるのだ
息が切れて
足が動かなくなるまで
かつて生まれてきた
僕達の祖先と何も変わらずに

それが怖いと思ったことはないが、ただ君のマックシェイクが悲しいと思うことはある

砕いたクッキーとバニラの甘味
少しばかりの絆のような触れあい
煙突から細く長く伸びていた煙が瞼の裏に見える
何処でしても何度言っても声を押し殺そうとするので
逆にそういうものなのだと思い始めた
小さな窓から星が見える
耐え切れない
何に?
自問自答の中で
シェイクの味を思い出す
昼間の君は物も言わずにじっと僕の手に渡ったシェイクを見ていた
そこに月があったから、というような自然さでずっと見詰めていた
いく、と君がくぐもった声で泣いた
どこへ?と僕は笑った
笑ったのだと思う

往くことしか出来ない道を走りながら、慰めに帰る家のことを考えているだけだ、皆同じさ

僕の眼鏡を隠したから
君の下着を隠してやった
君は怒って僕を軽く叩いたけど
それでも眼鏡を返してくれなかったから
もう許さないって返事をした
僕のパンツを履けって
惚気を聞いてくれるような友人がいたらこの手で殺した
僕は君を愛してる

誰が死んだかなんてもう関係ないぐらいに僕はとにかくお別れが悲しくて眠るのが怖い

時計に管理されたスケジュールを確認する
靴下と帽子まで丁寧にコーディネイトする
便宜的に朝食と呼ばれているだけのランチパックを食べながら
僕は自分がいつ死ぬのかをずっと考えている
神様も天使もとっくのとうに夢の中に去っていって
科学だけが人間を救うと空想を抱き続ける、そんなふりをしている
本当は真実が真実を語らないことも知っているのに
罫線に阻まれたその向こうの空に向けて
会いたい、と君への手紙を書く

あの煙突を忘れることはないだろう
君のマックシェイクも
昨日の夜も
だから泣かないで欲しい
僕が逝ってしまったことについて
何もかも無駄だったなんて
思わないで欲しいんだ
君はずっと生きていくんだから
僕らのささやかな思い出と

Dear.

追伸
さて、そろそろ時間だ
また会おう

投稿者

神奈川県

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