デウスエクスマキナ
もうどうしようもない、と親が言って
俺は産まれた
無学、無能、無知蒙昧の有象無象
もはや冗談にしかならなくなった現実を更に面白くする為の小道具
演じてる時に自分が何かなんて
思い出したらそれはもう役者じゃない
舞台を降りたくないばかりに
誰が書いた脚本かも知らない連中が悪夢のようなステップを踏む
人生はゲームである、と書かれた台詞を前に
ぼんやりとそのト書きの阿呆らしさについて考えている
俺は俺の為に俺がしたいことを俺らしく実現しなきゃならないのか
それが幸せなのか、なあ、お前もそう思うか、野良猫よ
舞台から降りると演者が舞台から俺を笑うのだ
役を失ったみじめな落伍者だと言って背中を指差すのだが
次の演幕でこの役は非業の最期を遂げる
フライドポテトをかじりながらケチャップがねえなって言ってる俺が勝者だよ
お父さんもお母さんも無いあの人達に会いに行こうと思う
その為にダフ屋から買ったチケット
なるべく履き慣れた靴と目立たない服と目深にかぶった帽子
俺はあなたたちの子じゃありません、つまり、その、昨日までは家族だったんですけど
兄弟は七色に輝くライトに照らされて幸せそうに笑っている
俺のことはもう見えないみたいだ
それで良い、と俺は思いながらそっと次の脚本に手を伸ばす
もう二度と自分が出て来ない、光よりも長く続くであろう稀代の名作を読む
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