くろ

〇△月 ××日
公園で子猫を拾った。真っ黒い被毛の、妙に肥えた雌だ。人懐こい。生後二カ月位だろう。今年の冬は寒いそうだから、飼うなら今だと思った。

〇△月 ××
「名前は?」と聞くと、「くろです」と答えた。

〇△月 ××日
キャットフードは、屠殺された動物の廃棄部分だから、体に良くないと獣医師に聞いた。コンビニ弁当みたいなものか?もっと酷いという返事だった。

〇△月 ××日
「ひげの先っぽが震えるくらいのかすかな響きがあなたの帰宅する時の心音なんです」「何の匂いもしないのはツインレイの特徴なんだそうですよ」
「尻尾に触らないでください。一ヶ月の終わりの方は特に敏感なんで」「ぶたにくとうしにくならとりにくがいいです、かまぼこよりおいしいから」

◇凹月 ××日
起きると隣にいる。寝た後に、一緒に寝に来るようだ。ご飯を食べていると、自分の分に手を付けずに私をじっと見ている。食べ終わると、自分の分に取り掛かる。いつも少しだけ残す。

◇凹月 ××日
熊の被害がすごい。一緒に鹿の狩猟動画を見ていると、姿勢を正して震えていた。くろは、「鹿は好きです」と言った。

◇凹月 ××日
「人間も理性があると辛いでしょう」「くろは理性的なので言葉でお話するんですけど」「そんなものないほうが幸せだった、と猫の身ながら思うんです」
「たとえばねずみを食べたいと思った時に食べられるし」「おしっこするのが恥ずかしいと思わなくていいし」「あなたに好きだって言えたし」

盛りだ。

◇凹月 ××日
「ずっとあなたといると思うと、それだけで胸が苦しくなるんです」「あなたが髪型を変えた時、シャンプーが切れた時、嫌いな物を食べるようになった時」
「あなたはきっと人間と幸せになるべきです」「でもくろはくろと一緒にいてほしいです」「ご飯を作ってくれたり、体を撫でたりしていて欲しいです」

〇➘月 ××日
寂しいのだろうと思い、おもちゃを買った。仲間が欲しい?と聞くと、控えめに断られた。

〇➘月 ××日
おもちゃのえびとまぐろならいかが好きなようだ。彼女の考えていることが大体分かるようになってきた。言うこともなんとなく読めるようになってきた。でも、くろの胸の苦しみが何かは分からない。猫になりたい。なって分かってあげられるのなら、猫になりたい。

89月 ××日
「くろの命がそんなに長くないのは」「あなたのことを自由にしてあげるためでした」

〇△月 ××日
「てんじゅをまっとうする、って辞書に書いてあるでしょう。読んでいないのにどうして知っているのか?くろには分かるんです。もうすぐそうなるから」

〇△月 ××日
くろがずっとそばにいるようになった。体はもうないんだけど。彼女が綴り続けた言葉が、私の中で生きているのが分かる。私が生きている限り、彼女はそばにいる。私が死んだ後は、誰かに遺った私の記憶の中に、いつもそっと寄り添っているだろう。くろに出逢えて良かった。くろの胸の苦しみが、いつか救われればいいんだけれども。

〇△月 ××日
くろ、君に言葉を教えたものは、なんだったんだい。それは、君を、苦しめただけではなかったのかい?

投稿者

神奈川県

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